遭遇したグランドホーンは穏やかな表情で草を貪っていた。その光景を見て思ったより簡単なのでは?と考えていた。
 
 試しに向けた殺気に気付いたグランドホーンがこちらを振り返った時に発したグランドホーンの殺気と雄叫びが威圧となって襲い掛かってくる。
 
 これほどまでとは思っていなかった。私は一瞬で足が竦んでしまい、息も碌に出来ない状態に陥ってしまったのだ。
 
 そしてグランドホーンは私に向かって突進してくる。これが想定を遥かに超えた速度だった。最初は馬と同じくらいでは?などと思っていたが、倍以上の速度で突進してきたのだ。
 
 当然私は動ける状態にないのでモロに食らってしまった。いくら『魔力展開』していようが、想定を超えるダメージなどある程度抑えることができても防ぎようはない。
 
 一瞬で身体全身の骨をバキバキにされた私は動けるはずもなく死を覚悟したが、グランドホーンの雄叫びを聞きつけて来た高ランク冒険者によって討伐してもらい救出された。
 
 それ以来、グランドホーンの名前を聞くだけで竦み上ってしまう体質になってしまった。
 
 所謂『トラウマ』というやつだ。
 
 身体が昔に戻ったのだから大丈夫かと思いきや、全く大丈夫ではなかったようだ。身体というより魂に恐怖が刻み込まれてるんじゃないかと思うくらいだ。
 
 よく考えたら『赤狼の牙』には殺されておいて恐怖を微塵も感じていないのに、殺されてないグランドホーンに恐怖を感じるのも可笑しな話だ。
 
 私は額に汗をかいていたことに気付き手の甲で拭う。これがただの討伐であれば『無理』と言ってトンズラすればいいのだが、人命しかも自領民の命が掛かっているのだ。さすがにこのままにはしておくわけにはいかない。
 
「いくしかないか……」

「えっ?」

 少女は聞き間違えたかな?という表情をしているが、恐らく聞き間違えではない。
 
「私が弟君を連れ帰ってくるわ。相手がグランドホーンは流石に不味いわ」

「で、でもお貴族様にご迷惑をおかけするわけには……」

 聞き間違いではないと気付いた少女は慌てだす。
 
「そう思うのであれば、次からはちゃんと言い聞かせておくことね。戦う術も持たない子供があんな場所で何が出来るというの?死ぬこと以外に出来る事なんてないわ」