お母さま、私のナナを使うだなんて後で一言言っておかないといけないわね。

「ミステリー関連の話をしてたら読みたくなってしまったわ。買いに行きましょう」

 ミステリー脳になってしまった私は本屋に繰り出すべく準備を始めた。
 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 一人で馬車に乗って街に繰り出そうとすると、誰かをつけられてしまうのでコッソリ抜け出して街まで走って来たのだ。
 
「ナナはいないし、油断するとヘンリエッタがついて来ようとするし、馬車で二人きりにでもなった日には貞操の危機だわ」

 本屋に向かって歩いている最中にミステリー以外も物色しようかなど考えている最中に横道から突然現れた少女に気づかずぶつかってしまった。
 
 少女は尻もちをついてしまったが、私は普段の訓練のおかげで微動だにすることもなく、ただ少女をはじき返す形になってしまった。
 
「考え事をしていたから、気付かなくてごめんなさい。立てるかしら?」

 私は少女に手を伸ばすと、私の手を掴んだが、その手は汗ばんでいる。よく見ると少女は息を切らしており、急いで走ってきたことがわかった。
 
 少女の手を引っ張り立たして顔を見ると、見覚えのある少女であることがわかった。
 
「あら、あなたこの間人攫いに誘拐された子じゃないかしら?」

 お祭りの日に誘拐された少女だった。私が潜伏場所を突き止めて、少女を救出するだけの予定だったのだが、人攫いが『赤狼の牙』と関りがあったため、ひと騒動起こしたという思い出に浸ろうとすると彼女が息を切らしながらも口を開いた。
 
「ハァハァ…… ぶつかって…… ハァハァ……すみません……」

「一旦深呼吸して落ち着きなさい。何かあったのかしら?私でよければ話を聞くわよ」

 少女は大きく深呼吸をして落ちつた所で私の顔を見てようやく私の事が分かったようだった。
 
「あ! あの時のお貴族様ですか? その節は本当にありがとうございました。あ、あの…… マークを…… 弟を探しているんですが見ていませんか?」

 少女の弟と言えば、お祭りの際に私に助けを求めてきた、つまりは事件を知るきっかけとなった人物でもある。
 
 今度は弟が誘拐でもされたのだろうか? もしそうだとしたらどれだけ誘拐されやすい姉弟なのだろうか。とりあえず聞いてみることにした。