もしくは魔力検知が出来ない程遠い場所から高魔力の風魔法で飛んできて辺境伯の部屋の窓に突撃すれば出来ない事もないわね。遠くからピンポイントで辺境伯の部屋の窓に突撃するなんて緻密な魔力制御(コントロール)ができればの話だけどね。
 うーん、でもそんな高魔力で魔力制御(コントロール)が出来る程の人であれば、一気に辺境伯邸を破壊した方が早そうだからわざわざ隠すメリットもないわよね。
 ちょっと今の所はわからないわ。次は?」
 
「はい、では二つ目です。辺境伯は魔獣の様な爪で体を切り裂かれた結果、絶命したとのことです。身体にもその痕跡が」

「爪? 人間の仕業ではないって事? はたまた魔獣を操ったって事? まさか…… あいつらは本能のみで生きる獣よ。人間が魔獣を操る術なんて聞いたこともないわ。
 魔獣を意のままに操るなんて書籍の中の話だけよ。もしかしたら、何れパラスゼクルの魔道具研究所の連中が作り出すかもしれないわね。魔獣を操る魔道具とか」
 
「お嬢様、そういうのを書籍では『ふらぐ』って言うのではありませんでしたっけ?」

「ナナ、不吉なこと言わないで頂戴。私も悪かったとは思うけど…… 話を戻しましょう。その二つだけなのね?」

「いえ、三つ目もあります。犯人は辺境伯殺害後、飛び去ったとのことです。これは見回りの衛兵さんが証言したらしいのですが
 窓が割れた音を聞きつけて庭から回って確認しに行ったところ、犯人らしき物体が辺境伯の窓から飛び去ったとのことです」
 
「んんん? 今の話を聞く限りだとやっぱり魔獣になっちゃうわね。しかも空を飛べるタイプ…… 物体と表現しているみたいだけど、何かまではわからなかったって事よね?」

「だそうです。何分深夜の事でしたから、暗くて見えなかったそうですが、何かが飛んで行ったという事だけはわかったそうです」

「魔獣とは言ったものの、ピンポイントで辺境伯の部屋の窓を突き破って、辺境伯だけ殺害して、窓から去っていくとか辺境伯に対する殺意高すぎるでしょ。行動だけ見れば完全に人間のそれなのよね。頭脳は人間で性質は魔獣なんて生物存在するのかしら?」

「そうですよね…… あっ、そろそろ時間。お嬢様申し訳ございません。奥様からの頼まれごとがありますので、この辺りで失礼しますね」