私はジェイの顔面を右手で掴むと高く持ち上げて右手に力を込める。
 
「あががががががががっ」
 
「マルグリット! おやめなさい!」
 
 フィルミーヌ様の一喝によりパブロフの犬が如く動きを止めてしまう。どうやら私の体はフィルミーヌ様に叱咤されることを喜びとしているかもしれない……。
 
 私は掴んでいたジェイを投げ飛ばした。尻餅をついたジェイは忌々し気にこちらを見ている。
 
「殿下の仰りたいこと、理解いたしました。誤解も多々ありますが、婚約破棄については前向きに検討させていただきます。今は感情だけで話をしても解決しないかと思いますので、一旦実家に戻り、改めて本件に関する釈明の場を設けさせてください。」
 
「フン! まあ、いいだろう。さっさと行け!」

 フンフン煩いんだよ、アンタ! 鼻息荒立てないと会話もできんのか!

「失礼いたしますわ。イザベラ、マルグリット、行きましょう」

「はい、フィルミーヌ様」

「!!!」

「あぁ、一つ言い忘れていたがな……」

 この王子、いちいち言い方が癇に障るんだよね。

「貴様らの両親に頼ろうとしても無駄だぞ? メデリック公爵、コンパネーズ伯爵、グラヴェロット子爵にも話は既に通っており家に帰ることは許されないだったな。」

「「「???」」」
 
 脳みそが今の発言を理解しきれていないのだけど、言葉通りに解釈するのであれば私たちの両親は殿下側についているってこと? 私たちを追い出すことに賛成しているってこと? 正直に言って信じられない。娘の私が言うのもなんだけど、めちゃくちゃ娘を溺愛する親バカなのだ。次期当主である兄も迷惑なほどのシスコンだと知っている。
 
 当時体の弱かった私は社交界などほとんど経験していなかったのだが、両親が少しくらいは経験した方が…… ということで、お兄様と一緒に侯爵家のお茶会に参加したことがある。そこでクソガ…もといそこの三男坊に目をつけられてしまい、私の容姿にケチをつけてきたのだがそれを見たお兄様が… ってこんな状況で昔語りしてる場合じゃない!