「ヴェルキオラ教ガルガダ支部で神父を務めさせて頂くモリスと申します。以後、お見知りおきを。また、不躾な視線を向けてしまい、お詫び申し上げます。マルグリット様のあまりの美しさに目を奪われてしまったが故です。お許しください。」

 はい、嘘。そんな視線じゃなかっただろうが。完全に怯えていたぞ。君は私の何を見ていたんだ…… 全く。
 
「そちらのお嬢さんはマルグリット様のメイドさんでしょうか?」

「えぇ、私の専属メイドを担当しているナナと言います。ナナ、ご挨拶なさい」

「は、はい。マルグリットお嬢様の専属メイドを務めております、ナナ・クサナギと申します。よ、よろしくおねがいします」

「これはこれはご丁寧に。それにしてもマルグリット様はお若いのにしっかり受け答えが出来て素晴らしいですな」

「いえいえ、もう六歳になりますから、このくらいは貴族令嬢として当然ですわ」

 サディアス司祭の顔の一部が震えたのを私は見逃さなかった。
 
 今何に反応した? 大した内容ではなかったはずだけど…… まさか年齢か?
 
 という事は…… 考えたくはないが、ヘンリエッタの同類か?
 
 マルグリット的ブラックリストに追加しておかないといけないわね。
 
「それにしてもマルグリット様は何故この様な離れた場所から建設現場を見ていらしたのでしょうか?もし、宜しければ炊き出しをご一緒しませんか?マルグリット様のお口にも合うかと思いますが如何でしょうか?」
 
 冗談じゃない! そんな現場を誰かに見られたらグラヴェロット家はヴェルキオラ教に肩入れしていると思われてしまう。私たちは中立の立場でいないといけないんだ。一旦適当な理由をつけて離れないと。
 
 まあ、味が気にならないと言えば噓になるけど……。
 
「いえ、今回確認させて頂いたのは、皆さんがこの街に来て間もないと思いましたので、近隣住民とのトラブルに巻き込まれていないかを確認するためです。それにいきなり貴族令嬢が現れたりしたら皆さんも困ってしまいますでしょう?」

 ククク、即興で考えたにしては中々良い言い訳ではないですか。

「それもそうかもしれませんね。それではまた別の機会がありましたら、ご一緒させてください」

 思ったよりもあっさり引き下がったわね。この手の輩は食いついてくるものだとばっかり思ったけど。