悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

 高ランク…… BランクかAランクの魔獣が人間に擬態しているのでは? 後で私たちを美味しく頂く気なのでは? とさえ思ってしまう。
 
「脳筋幼女!」
 
 どうせ今でも後でもこの幼女に擬態した魔獣(?)に食べられてしまうかもしれない。
 
 そう考えたらどうでも良くなってきて、ついついヤケクソになって言ってしまった。
 
「最後にいいものが見れたわ」

 チェスカも私と同じ気持ちなのだろうか。半分ヤケクソになっているように聞こえる。 
 
「『当たらなければどうという事はない!』ですわよ」

 彼女は曲芸師の様に軽々とオークの迫りくる腕から回避して飛び上がると、その勢いでオークを蹴り飛ばしていた。
 
 待って…… 人間より大きいオークがあんな飛び方するってある? これから先の人生、何を見ても驚かない気がしてきた。
 
「今の感触だと首の骨もポッキリいってるでしょうから、解体するならどうぞ。オークの素材は私には不要なのであなたたちの自由にして構いませんよ」
 
「めちゃくちゃ強っ、本当に人間? 人間の皮を被った高ランク魔獣とかじゃないよね?」

 オークが一瞬で倒されて可笑しくなってしまった。緊張感が抜けたせいか、つい先ほど心の中で思っていたことをつい発言してしまった。
 
 が、彼女は対して気にも留めていなかったようだ。良かった……。
 
「えー、勿体ないよ! それに君が倒したのだから所有権は君にあるんだよ。私たちは何もできなかったしね」

 チェスカはもういつも通りである。羨ましい。こういう時のチェスカの性格は本当に何より羨ましく感じる。
 
「構いません。その代わりと言っては何ですが、少しお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
 
 本当に? 私たちを食べるんじゃなくて話だけで済むの? それならいくらでもさせて頂きます!
 
 それから私は彼女がまだ六歳であること、父親が元冒険者であること、二年後に登録するであろうギルドに関する事などの話をして盛り上がった。
 
 彼女が帰るというので一緒に帰ろうかと思ったが、どうやら彼女が住んでいる場所は別にあるらしい。
 
 近場の街がガルカダだからてっきり同じ街に住んでるものかと思ったので、登録前にギルドでも案内しようと思ったのだが、まあ仕方ない。
 
 ギルドか…… オークの素材なんて持ち込んだらエミリアさんに何を言われるか分かったものではないけど、大人しく怒られるとしよう。
 
「「じゃあ、私たちも帰ろうか」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
 
 
 
「やっとガルカダに戻ってこれた」

「早く素材売却して飲みに行こうよ」

「あんたのその欲望に忠実な性格、羨ましいわ」

「何その引っかかる言い方」

「ちょっとは考えなさいよ、Eランクに上がった時にエミリアさんに何言われたか忘れた?」

「んん~? あ! 『ランク上がったばっかりだから』云々のくだりの話?」

「魔獣のランク上げるなって言われたのにDランクの素材持っていったら説教されるに決まってるじゃない」

「しょうがない。無事に帰ってこれたんだし、そんなに説教も多くないでしょ」

「でも自分たちで倒せました…… なんて言えるわけないわ。かと言って今マルミーヌちゃんの話をするのは避けておきたいから、なんて言って誤魔化そうかなって……」

「そこは濁しておけばいいじゃん。通りすがりの冒険者に助けてもらいましたって。反省してますって」
 
「あんたが言うと反省も嘘くさくなるのよね」

 あの子の存在をどう隠すか考えている最中にギルドにたどり着いてしまった。まだ考えが纏まりきれていないのに。仕方ないか……
 
 私たちは重い足取りで入口を潜ると……
 
「おかえりなさい」

 笑顔全開で出迎えてくれる受付の女性を見かけたときに私たちは恐怖に足が竦んでしまった。

「ヒッ、エミリアさん」

「あら? どうしました? 人の顔を見て怯えるなんて失礼じゃありませんか? それとも何か疚しい事でもあったりしましたか?」

「い、いえ…… あの…… その……」
 
 エミリアさんの『隠してることをさっさと言え』と言わんばかりの威圧に気圧されて私たちは覚悟を決めることにした。
 
「すっ、すみませんでした~!」

「何に対しての謝罪でしょうか? 皆目見当つかないのでご説明していただけますか? 全部ですよ」

 私たちはエミリアさんの脅し(?)に屈して私たちの身に起きた事の説明をした。
 
 注意を無視して上位ランクに手を出してしまった事、そのせいで死にかけてしまった事、助っ人が介入してくれたおかげで九死に一生を得た事。
 
「はぁ~、人の言う事を聞かない人たちが多い中、貴方たちなら私の話を聞いてくれると思ったのに~」

 エミリアさんは頭を抱えて私たちに呆れている。そう言われる事は覚悟してたけど実際に言われると結構グサッとくるな。

「これで分かったでしょう? いきなり高ランクに手を出すなって言った意味が」

「でもFランクの時にEランクの魔獣は倒してたんですよ?いきなりDランクになったら全く歯が立たないってのヘンじゃないですか? チェスカのフレイムバーストでもほぼ無傷だったんですよ」

「なんかそれは変ですね。譲ってもらったという素材の方を出してもらえますか?」

 エミリアさんが首を捻っている。私たちはランクは低いがチェスカの攻撃魔法はそれなりに評価されているからDランクに対して無傷というのはエミリアさんにとっても不思議な事なのかもしれない。

「これです」

 受付台に並べられた素材を見て、眉間に皺を寄せながら素材のチェックをしている。エミリアさんは元高ランク冒険者で活動期間も結構長いみたいだから素材を見れば魔獣に関する情報、素材の価値がわかるらしい。
 
「これ…… オークじゃないわね」
 
「え? どう見ても豚でしたよ。オーク以外に考えられないんですけど……」
 
「ハイオーク…… オークの上位個体ね。でも魔石のサイズからすると若いわね。レートで言うなら限りなくCランクに近いDランクって感じかしら。成熟していたら完全にCランクなんですけどね」
 
 ということは、ほぼCランクを一発で蹴り殺したってこと? マルミーヌちゃんってマジで何者なの?
 
「もしかして高値で売れます? しばらくいい酒飲めそう~、やった~」

 コイツ、まじでブレないわね。たまにチェスカの性格は羨ましいなとは思うけど、ここまで能天気だと逆に病気レベルね。マジで検査受けさせた方がいいんじゃないかと思うわ。

「やはり介入したという人物について聞いておかないといけないですね。話を聞いた限りでは騎士でも冒険者でもないのでしょう? ハイオークを一発で倒すような人物が正体不明だなんてこちらとしても捨て置けませんよ」

 やっぱりそうなるか~、二年後まではどうにか隠し通したかったんだけど…… どうやって濁して有耶無耶にするか…… 考えるんだ、ルーシィ。

「いや、でも本当に悪い子じゃないんですよ。颯爽と登場したときなんか天使かと思っちゃいましたもん」

「子……? その言い方だと少なくとも貴方たちより年下ってことですよね? それに天使と形容する容貌を推測するに可愛らしいって事ですよね?」

 だあああああ、しまった。迂闊に喋るとエミリアさんにどんどん情報を抜かれていく気がする。
 
「眩しいくらいの笑顔で素材も全部譲ってくれたし、本当にいい子なんですよー。さすがの私も彼女の事はこれ以上言えませんな」

「彼女? 女性? という事は女の子ってことですか?」

 チェスカアアアアアアアア、いや私もわりかし同罪なんだけど、頭がパッパラパーな私たちに言葉を選びながらという高尚な対応はできないっぽいからストレートに言うしかない。
 
「すみませんが、これ以上恩人の事を探るのはやめて頂けませんか? 彼女は二年後になったらここに来ると言っていました。それまでは聞かないで欲しいです」

「……わかりました。危険な人物かどうかだけ知りたかったので、これ以上の詮索はやめておきます。それに貴方たちの話と二年後に来るということを踏まえれば少なくとも悪人ではないという事、前途有望な若者という事もわかりましたし、ここまでにしておきます」

 ごめん、マルミーヌちゃん…… 私たちがお馬鹿なせいでどんどん情報が抜かれちゃった。最後の砦は死守したから許して……
 
 ハイオークの売却で予想以上の収益が出た私たちはギルドを後にしていつも通っている酒場に行くことにした。
 
「ドンマイ、ルーシィ。元気出していこう」

 いや、お前はまず反省しろ! 山よりも高く海よりも深く反省しろ! 私もだけどさ……。
 
「マルミーヌちゃんにまた会えるかなあ」

「定期的に大森林にいるって言うから会えるんじゃない?」

「そっか…… そうよね…… よーし、頑張ろう。じゃあ、今日は飲みに行くわよ~」

 追いつくのは無理かもしれないけど、一ミリでも近づけるように努力するんだ。
 
 頑張ろう…… 明日から。
「訓練直後のお風呂って最高ね」

 お風呂上り後に夕食の時間まで本でも読もうと思った直後、部屋のドアがノックされる。
 
「お嬢様~、お夕飯の準備が整いましたよぉ~」

「ありがとう、ナナ。今いくわ」

 私は早歩きで食堂へと向かった。そこにはお母さまとお兄さまがいるものの、お父さまがいなかった。

「あれ、お父さまがいらっしゃらないようですが?」

「まだ執務室かもしれないね」

「でしたら、私が旦那様を呼んでまいりますぅ」

「まって、ナナ。私がいくわ。丁度、お父さまに用事があるのよ」

「承知いたしました。お嬢様」

 実は用事と言うほどの事ではない。執務室にも本棚があるのだ。最近チェックしていなかった事を思い出し、新しい本が本棚に格納されていないかチェックする口実に都合がよかっただけ。
 
 ククク、本の虫マルグリットの抜き打ち検査がは~じま~るよ~。私は執務室のドアをノックしてお父さまがいることを確認する。
 
「お父さま、マルグリットです」

「マルグリットか、入っておいで」

「失礼いたしますわ。あら、お父さま…… 頭を抱えられているようですが、何かありましたか?」

 お父さまはため息を突きながら、手に持っていた書類を眺めている。

「うん、実はガルガダに教会建設の話があってね」

「教会ですか……?」

「あぁ、大分前から申請は上がってきていたんだがな、諸々の事情で先延ばしになっていたんだ。それがようやく最近目処がたってね。あとは許可を出すだけなんだけど……」

 諸所の事情って何かしら? 聞いたところで答えてはくれなそうだし、聞いたら聞いたで厄介事の匂いしかしないから聞くのはやめとこ。でもおかしいな…… ガルガダってたしか教会があったはずだけど。

「あれ? 既にガルカダには教会が建ってましたよね?」

「いや、聖王教の方ではなくヴェルキオラ教の方だ」

「揉め事が起きそうな組み合わせですね」

「そうなんだが、ヴェルキオラ教の出資で孤児院も併設してくれるというので無下にはできんのだよ」

 ――ヴェルキオラ教会と聖王教会
 
 この大陸には大きく二つの教会が存在している。それがヴェルキオラ教会と聖王教会。
 
 信者数の比率的には八対二と言ったところだろうか。
 
 両教会は元々同一の教会だったのだ。元を辿れば女神ヴェルキオラを信仰するヴェルキオラ教が祖になるのだけれど、今からおよそ八百年前の話、当時教皇選挙(コンクラーヴェ)で最大派閥の枢機卿が対抗派閥の枢機卿の罪を暴いた結果、対抗派閥の枢機卿とその一派を全員追放したとされている。
 
 追放された一派は誰も住んでいない様な場所まで落ち延びて、そこを拠点に国を興したとされるのが、現在の聖王教国だ。一から国を興すなど私ごときでは想像を絶する苦労や恐怖、絶望など幾度となくあったことだろう。人はそれでも誰かに何かに縋る事さえできれば生きていくことができると思っている。その対象が当時の枢機卿であり、初代聖王と言われた人物だろう。
 
 しょうもない人間に人がついていくはずもない。恐らくその人物はその様な過酷な状況であっても付いていくにたる人間性を持つ人物であったと思われる。でなければ国が出来てから八百年も続くわけがない。
 
 故に聖王教会では初代聖王こそが当時の現人神とされており、初代聖王が没して神上がりと扱われてから以降の聖王は神となった初代聖王に仕える使徒という扱いになっている。
 
 とされるくらい、もはや聖人と言っても差支えない人物が対抗馬にいくら最大派閥とは言え、気が気じゃなかったことでしょう。どんな手を使ってでも自分が評価されるように仕向けるか対抗馬の評価を下げる様に仕向けなければならない。
 
 となると、当時の最大派閥の枢機卿…… とりあえず悪枢機卿と呼称しよう。悪枢機卿は対抗派閥の枢機卿であり初代聖王にでっちあげの罪をおっ被せて評価を下げる方が簡単だと考えるのが妥当だ。
 
 ヴェルキオラ教の書物も読んだことはあるが、やはりこの当時は悪枢機卿が教皇となり、追い出した初代聖王に対してはこれでもかと言うほどの罪を被せていたようだ。そして、その初代聖王に付いて行った全体二割の信者にも同様の罪を被せていたようだ。
 
 怖すぎでしょ、この人。
 
 そのためか、ヴェルキオラ教からすれば聖王教は罪人の集まる邪教とまで言われている。だから八百年経った今でも対立がすごいすごい。
 
 私からすれば自分たちの対抗派閥が現れたくらいで他人を『背信者』だの『邪教徒』と宣う、あなたたちヴェルキオラ教の方がよっぽど邪教だよ。まあ、そんなことを口にでもしようものなら何をされるかわかったもんじゃないから言いませんけど。
 
 困っている人に寄り添い、無償で食料提供や治療を行う聖王教、困っている人から寄付と称して財産を巻き上げ多少の食糧提供と治療を行うヴェルキオラ教。
 
 ここだけ抜き出せば、そりゃみんなが聖王教だよねというに決まってる。
 
 だが、世の中は正義と優しさだけで生きていけるほど甘くはない。聖王教はその性格故、常に資金不足に悩まされている。
 
 そしてヴェルキオラ教は資金が潤沢なため、生活に困ることがない。それは両教会が運営している孤児院にも結果として現れている。
 
 親もなく、明日も生きることができるかわからない子供たちに倫理や道徳などは通用しない。彼等、彼女等は今を生きることが全てだから……
 
 そんな子供たちは貧困な生活と裕福な生活を選択させるとした場合、子供たちはどちらを選ぶでしょうか? そしてどちらに忠誠を誓うでしょうか?
 
 これこそがヴェルキオラ教が大陸最大の宗教である所以なのだ。
 
 そしてその資金力を持って国の中枢に入り込もうとしているという噂は前回の人生の時に耳にしたことがある。
 
 もはや、やりたい放題である。

 ねぇ、女神ヴェルキオラ様。もし、あなたが本当に存在するのであれば何故彼らの暴挙をお許しになるのですか?それとも、それがあなたの望んだことなの?
 
 なんてね…… いるかどうかもわからない存在に必死に語りかけるなんて馬鹿げてる。
 
 そんなことわかってるはずなのに…… こういう時に限って思い出してしまう。
 
 本当に神がいるんだとしたら、あの時フィルミーヌ様とイザベラをどうして助けてくださらなかったのですか? 
 
 あの二人は私にとってだけじゃない。この国になくてはならない宝なの。殺されるなんてやっぱり間違ってる!
 
 何故死ななければならなかったの? どうして助けてくれなかったの?
 
 
 
 
 
 
 
 ねえ、どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 答えなさいよ!!!!!!!!!!
 






「マルグリット? どうした? おい、マルグリット!」

「ハッ! 申し訳ありません、お父さま。つい、考え事をしてしまいまして」

 いけない。教会の話だったはずなのに、つい二人の事を考えてしまうと暴走してしまう。
 
 わかってる。こんなのただの八つ当たりだ。自分が弱くて守れなかった分際で無関係な神にまで感情をぶつけてしまうなんて、最低だ。ヴェルキオラ教がどうとか他人の事をとやかく言えないな、私も……。

「本当にそれだけか? すごい形相していたが……」

 感情が迷子になっている状態で会話を続けていたら何を迂闊な発言するかわかったもんじゃない。頭を冷やすためにさっさと退散しないと。

「疲れているのかもしれませんわね。先に食堂に行っていますからお父さまも早く来てくださいね」

「わかった。書類だけ纏めたらすぐ行くよ」

「わかりました。その様に伝えておきますわ」

 私はお父さまに今の自分の顔をこれ以上見られたくなかったから逃げるように食堂へと向かった。

「マルグリット…… お前に一体何があったんだ? あの形相は只事ではなかったぞ。まるで世界の全てを憎んでいるかのような……」
あれから四日が経過した。お父さまの前でやらかしてしまったせいか、何も手につかない。
 
 自分が如何に小心者であったかをこれでもかというほどに思い知る。
 
 訓練しようにもそんな気分じゃないし、時間は刻一刻と迫ってるのに気分も上がらない。本を読む気分でもない。

「時間は有限なんだからやる気見せなよ、マルグリットぉ」

 自室のベッドの上でゴロゴロしながら、やる気を無理にでも出そうと声を出して自分を奮い立たせようとする。
 
「本当ですよ、お嬢様」

「ぎぇっ!」

 まじでビックリした。心臓がバクバク言ってる。ナナがこんな近くに来ていることにも気付いてなかったとは迂闊にも程がある。
 
「何が『ぎえっ』ですか。その様な淑女にあるまじき台詞が出るようですと奥様に報告せねばなりません」

 ナナが腰に手を当て、頬を膨らませたお説教モードでにじり寄ってくる。

 別の意味で『ぎえっ』だよ、それは! お母さまの淑女教育が前倒しにされて始まってしまう。一番避けなければならない事態。
 
「わかったわ! 起きます」

 私は急いでベッドから飛び起きる。これからどうしようかと考えていた矢先、ナナが口を開いた
 
「そういえば、ガルガダでヴェルキオラ教の教会建設が始まったみたいですよぉ」

 でた! あいつら街に教会建設すると不思議なくらいの勢いで信徒増やすと聞いたことがある。ゴキ〇リかな?
 
 一体どんな手を使ってるのやら……。

 あっ、今ピーンと閃いちゃったよ。
 
「ナナ、ガルガダに行くわよ! あいつ等が何をしでかすのかこの目で見てやるのよ」

「しでかすって…… 悪人と決めつけるような言い方は良くないですよぉ」

「そうと決まったら早速準備するわ。ナナも支度をして来て頂戴」

「かしこまりましたぁ」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 ガルガダに着いた私たちは街の入り口付近で馬車から降りて、散歩をしながらヴェルキオラ教教会の建設場所を探すことにした。
 
「お嬢様、衛兵さんなら場所を知ってるんじゃないでしょうか? 聞かなくてもよかったのですか?」
 
「馬車には家紋が付いているわ。その状態でヴェルキオラ教の事を聞くだなんて信徒ですと言っている様なものよ」

「なるほどです。お嬢様はヴェルキオラ教がお嫌いなんですか?」

 うーん、改めて聞かれると難しいわね。
 
 正直に言うと『良い印象は持っていない』が正しいのよね。
 
 聖王教への迫害然り、寄付金と称して財産を巻き上げている事も然り、宗教団体が国の政治に関わる事も然り
 
 その一方で、孤児院運営はきっちり行っているという結果もある。
 
 そうでなければ、これだけの信徒数など獲得できるはずもない。
 
 そういう意味では認めざるを得ない部分はあったりする。
 
 故に嫌いとも言い切れない。
 
「お互い歩み寄ってくれるのが一番いいんだけど、長年争ってるんじゃそれも難しいわよね」
 
 私は天を見上げながら愚痴を溢すとナナが何かを見つけたか、その方向に指をさしている。
 
「お嬢様、あそこではありませんか?」
 
 場所は割とスラムに近い一角。
 
 私たちは少し離れた場所からナナと世間話を装いつつ、その現場を眺めていた。
 
 山積みされた建築資材を担いで数人の大工と思われる体格の良い男性たちが教会の建築作業を行っていた。

 それと並行して、空きスペースを使った炊き出しも行っている様子も見て取れる。
 
 白い装束を身に纏った人が寸胴から器にスープを移してはパンと一緒に並んでいる人たちに配っている。
 
 大きめの寸胴は複数あり、数百人分は賄えるであろう量であることが伺える。
 
 割と離れている距離からでも食欲を刺激するような匂いが漂っており、それを嗅ぎつけたであろう付近の住人が我も我もと匂いの元に群がろうとしている。
 
 それを見かねた白い装束の一人がきっちり整列をさせて、並んでいる人たちは今か今かと待ち遠しそうにしている。まさかとは思うけど、食料で忠誠を拾ってるんじゃないでしょうね。
 
「ん?白い…… 装束……?」

 どこかで見たような…… どこだろう? 思い出せない。
 
 途端に頭痛に襲われる。思い出そうとすればするほど痛みが増していく。
 
「痛っ…… なんなのよ、もう」
 
 私は手で頭をさすりながら、この小骨が喉に刺さって取るに取れない様なもどかしさにイライラを募らせていく。
 
「お、お嬢様? 大丈夫ですか? 頭痛ですか?」

 私のイライラ感を察知したナナが慌てた表情で確認してくる。
 
 アワアワしている表情も可愛いよ、ナナ。
 
 ちょっとは頭痛とイライラが収まって来たかもしれない。