魔法を扱う上で基礎でもあり最も重要とされる魔力の制御。その魔力を体に流れる血液の様に全身に魔力を流すことで身体能力が強化されるんだけど、私はこれを『魔力展開』と呼んでいる。ここで間違ってはいけないのが全身に流す魔力量。体が一度に受け付けられる魔力量には許容範囲があり、それ以上を流し込むと体に支障をきたしてしまう。少量の許容範囲オーバーであれば筋肉痛程度で済むけど、大量の許容範囲オーバーを行うと最悪なケースは全身が爆散することもあるらしい……。これを鍛えるには主に二パターンあり、一つ目は身体能力を上げること。二つ目は常に魔力を体に展開し続けて慣らすこと。
 
 私はこれを覚えてから約三年間毎日続けてきたのだ。魔力の制御において学園で私の右に出るものはいない。
 
 ロイスは帯剣していた木刀を右手に持ち、袈裟斬りしてきたところを私は華麗に躱して空いた脇腹に拳を叩き込み、ロイスが下がったところに蹴りを入れるが木刀で防がれてしまった。しかし、拳のダメージがあるのか脇腹を抑えている。
 
 てきの ろいすは たおれた…ようなもの!
 
「まったく、二人共だらしないね」

 大物ぶって階段からゆっくり降りてきたのはジェイ。賢者の弟子という仰々しい肩書を名乗っているが要するに宮廷魔導士長の弟子ってだけ。
 
「物理では犬に一歩遅れを取っているようだが、魔法ではどうかな? 君はたしか攻撃魔法が苦手だったはずだ」

 お察しの通り、私は攻撃魔法、回復魔法が苦手なのだ。とはいえ使えないわけではない。ただ、そっちに魔力を使うくらいなら物理を補う方に使った方が効率がいいだけなのだ。
 
 そして、魔法全般はイザベラの得意分野だったりする。私たちはそれぞれ、武のマルグリット、魔のイザベラで学園のツートップを誇っている。麗しの公爵令嬢フィルミーヌ様の取り巻きたるもの当然です。
 
「躾の時間だよ、番犬。さあ、食らうといい」

 私が普段、誰を模擬魔法戦の相手にしてると思ってるの? あなたの目の上のたん瘤であるイザベラだよ? ジェイはイザベラに比べて魔力の練りが甘い。だから魔法の発動まで時間がかかる。私ならジェイの魔法発動前に接近して捕まえられる。案の定、簡単に接近した私は左手で杖を抑えて右手でジェイの顔面を捉えた。
 
「はい、捕まえた」