天使が私たちを迎えに来たのだ。黒い髪を靡かせて颯爽と登場したのだ。

 フライングでは? まだ生きてますが何か? もしかして十分前行動ですか? 天使の世界にもそういう暗黙のルールみたいのあったりしますか?
 
 もしくは生きてると思っていたけど実は既に死んでるとか?

「ご無事ですか?」

 無事? その言葉を聞いて実はまだ生きていたことを実感する。

「神が遣わしたもう天使降臨? 違った、幼女だった」

 我に返った私は目の前の天使をよく見ると羽もなければ輪っかもない少女…… いや、どう見ても幼女であることを即座に理解した。
 
「お礼にハグしたい…… そうじゃなくて、なんで子供がこんなところに?」

 チェスカは早速余裕をかまし始めた。コイツ、切り替え早すぎだろ。

「立てそうですか?」

 全く危機感を感じていないであろう幼女を目の前に何故か私たちにも心に余裕ができたのか普通に会話することができた。

「腰が抜けてるからもう少し待って」

「危ない、後ろ!」

 だが、私の視界にはオークが幼女に向かってこん棒を振り上げてるのも視界に入っていたが、腰が抜けて立てなかった私は幼女に言葉で警告することしかできなかったのだ。

「ダメ、間に合わない」

 余裕をかましたはずのチェスカは諦めるのも早い。何事においても切り替えの早さだけは異常である。
 
 そしてオーク渾身の一撃が振り下ろされるが……
 
「あら、大袈裟な音量でしたが、思ったより威力は大したことありませんのね」

 幼女はビクともしていなかった。我が目を疑うどころではない、私の頭は今正常に動作しているのか? 実は既に倒れていて夢でも見ているんじゃないかとさえ思っていた。
 
「ごめんなさい、ついつい力が入っちゃいましたわ。あなたの大事な武器の一部をおがくずにしてしまいました。許してくださるかしら」

 意味が分からなかった。握っただけでこん棒を抉るってどういう事? もしもこれが夢でないんだとすると、私は一体何を目撃しているのだろう? 
 
 自分の常識は他人にとっての非常識、逆もまた然り。とかいうレベルの話ではない。
 
 この子の存在は私から見ても他人から見ても非常識である。