どうも、ごきげんよう。豚の屠殺ならお任せください。こんな事をしていると本当に貴族令嬢だったっけ?などと自信を無くそうな幼女マルグリットです。
豚さんがキッカケで出会った現役冒険者であるお姉さま方にこの土地ならではの話を聞こうと思い、只今ヒアリングをするところなのです。
「話? そんなものでいいなら私たちから答えられるものがあれば何でも答えるよ」
「そうね、オークも貰っちゃったし、解体しながら話してもいいかしら?」
「ええ、もちろんです」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はルーシィ、こっちのローブを着た子がチェスカよ」
ふむふむ、戦士のお姉さんがルーシィさん、魔法使いのお姉さんがチェスカさんね。
「申し遅れました、私はマル……」
本能的に嫌な予感がした私は名前を発する途中で脳みそをフル回転させていた。
マルグリットって普通に言ったら色々まずくない?
年齢までは言ってないけど、幼女でそれなりの恰好をしたマルグリットなんて街で噂になったりでもしたら、遠くないうちに領主の娘って特定されてしまうのでは?
というか万が一にでも家族の耳でも入ってしまったら私に行きついてしまうかもしれない。
まだ私は身体の弱いご令嬢で通ってるの。何れはバレるかもしれないけど、さすがに今はまだその段階じゃないの。
せめて…… うーん、十三歳から十五歳くらいならまあしょうがないかなとは思うけど、今の時点はさすがにマズイ。
だってまだ六歳よ? 麗しき六歳の幼女がオークをワンパンよ? さっきはパンチではなくキックだったからワンキク? 我ながらダサいネーミングね。
ともかく六歳がオークを倒すこと自体、噂にならないわけがない。
それに六歳の時点でオークを一撃ってお父さまの耳にでも入ったらどうなるのかしら?
お父さまは元々冒険者だったし、大喜びで『さすが私の娘』とか言うくらいで私にとって大きな影響にはならなそうだけど…… あくまでお父さまでの話の場合よ。
大問題なのはお母さまの耳に入った時だわ。お父さまの耳に入ったら当然嬉しそうに当然家族にも娘の大活躍(?)を語るでしょうね。
そうなった場合、お母さまからしたら淑女としてあるまじき行為として冒険者活動禁止どころの話では済まなくなってしまう。
顔面に青筋立てて本気の淑女教育が開始されてしまうでしょうね。身体が実は弱くなかったという虚偽についても問い詰められそう。
そして私の苦手なお茶会だの連れまわした挙句、成人前にマジのガチで社交界でデビューさせられてしまうかもしれない。
私だって貴族令嬢だから嫌でもそれをいつかはやらなきゃいけないことはわかってるの。でもそれは今じゃない。フィルミーヌ様とイザベラを今度こそ守りきるまでは……
それまでは本気で勘弁してほしい。あの空気って本当に苦手なの…… あそこに参加している人たちって何が楽しくてキャッキャウフフしてるのかしら?
当時の私は身体が弱いだけじゃなくて引っ込み思案で人見知りが激しかったから、それを見かねたお母さまが他人との接し方を覚えさせるためにお兄さまと一緒にお茶会への強制参加させられたことがあったけど、あの周りの品定めしてやろうという目線がもうダメ。見られてるだけでも苦痛なのにあれはないわ。しかもよくわからない絡まれ方されたし、二度と行くまいと誓ったんだったわ。
ハッ、いけないいけない。どんどん脱線して来てる。
名前よ! 名前をどうするのか考えないと。兎に角、マルグリットのままじゃダメ。
一旦仮の名前にしましょう。偽名ってやつね。なんかカッコいいわ。
『マル』まで発言しちゃったからマルなんたらにしないとダメね。
まる…… マル…… MARU……
うーん、思いつかないいいいいいいいいい。
私に良い知恵を! 助けて、イザベラ、フィルミーヌ様
マルグリット……
イザベラ……
フィルミーヌ……
ハッ! その時、私に神が舞い降りた。
「……ミーヌ」
「え?」
「ごめん、なんか聞き取れなかったんだけど」
「マルミーヌです……」
二人ともポカーンと口を開いていらっしゃる。わかる、わかります。言いたいことはわかります。
ごめんなさい、フィルミーヌ様。自分で言うのもなんですが、めちゃくちゃダッサ。
何このセンスの欠片もない名前。少しでもフィルミーヌ様にあやかりたいなぁなんて欲を出した罰だわ。
穴があったらはいりたーい。書籍とかだと主人公とライバルが合体したら強くなるとかあるでしょう?
ところがどっこい、私の場合は完全に弱体化してるわ、マジで! むしろマイナス要素まで感じられるわ。
『混ぜたらキケン』とかラベルの薬品とかあったけど、まさにこの事ね!
『それを混ぜるなんてとんでもない』とかこんな場所では誰も注意してくれないし、しょうがないわね…… 諦めましょう。
いつかまたフィルミーヌ様にお会いするときが来たら、やってはいけない『悪魔合体』してしまったことをお詫びしないといけないわね。
結果としてフィルミーヌ様に『ワタシオマエマルカジリ』と言われても素直に受け入れるしかないわね。
あの人はそんなこと絶対言わないでしょうけど。
「えっと、個性的で素敵な名前ね?」
「『マル』の時点で大分長考していたみたいだけど、もしかして今考えた感じ?」
ストレートにぶっこんで来たチェスカさんにルーシィさんは『察しろ』と言わんばかりに肘打ちをチェスカさんの脇腹に食らわしていた。
「あんたね、こんな幼くて可愛らしい子供のケリでオークの首をへし折りました所を見ましたなんてギルド内で言ってみなさい。街中で一気に噂が広がるわよ」
「その前に誰も信じなくない? エミリアさんとかギルドマスターに言ったら将来有望な人材って喜んでくれそうだけど……」
「大多数はね、一部でも信じる奴が出てきて、その中にマルミーヌちゃんを利用しようとする奴がいたらどうするのよ?
こんな幼い子供がこんな所で魔獣狩りしてるなんて余程の訳アリだわ。そりゃ偽名も使いたくなるわよ。
それ以上に命を助けてもらった恩があるのに仇で返そうとするなんて私が許さないわよ」
あんな頭の悪そうな悲鳴を上げておいて、思ったより思考はまともな方だわ。
「わ、わかってるわよ。別に酒の肴にしようだなんて考えてないから」
いや、絶対考えてたでしょ、貴方。
どうも、ごきげんよう。ネーミングセンス壊滅令嬢マルグリットです。
咄嗟の事とは言え、あれはないと自分でも振り返って反省している最中でもあります。フィルミーヌ様にどんなお詫びをするべきかなぁ。
「マルミーヌちゃんは見た感じ八歳未満っぽいけど、まだ冒険者登録していないのよね?」
「そうです。今六歳なので二年後に冒険者登録する予定です」
この国では冒険者登録は八歳から可能なのだ。他の国では十歳からだったり年齢制限無しなんて国もあるらしい。
国ごとに民度も経済事情も異なる為、一概には言えないけど経済レベルが低い様な発展途上国は余計な制限を掛けると暴動が起き易くなるからそういう国ほど年齢制限が無く冒険者登録できるみたい。
だからこそ倫理観も希薄になってしまいがちなのか、人の命を軽視する傾向にあるのか、余計な人口を増やさないようにする為の国家ぐるみの口減らしを目的として年齢制限を取っ払っているのかもしれない。
そういえば、何故か発展途上国ほど一つの家庭から生まれる子供の数が多いみたいなのよね。
恐らくは労働力の確保の為なのだろうけど、その労働力になるまで育てられずに亡くなってしまうことも多いとか。ままならないものよね。
逆に比較的裕福な国ほど民の存在、育成を重要視しているから、無駄な被害を最小限に抑えるために制限を掛ける事が多い。
私の故郷でもある、このエシリドイラル王国は裕福な部類に含まれる。
裕福だと余裕があるせいなのか、ゆとり教育のせいか上位層に馬鹿が現れやすくなるけど、王子なんてその典型だと思う。
アイツで思い出したけど、元はと言えば馬鹿の代名詞たるアイツがフィルミーヌ様以外の女性に手を出すから私が過去に戻る嵌めになったのよね。
それにしてもアイツはフィルミーヌ様の何が気に入らなかったんだろう?
あんな美しくて性格もよく次期王妃としてあの人ほど完璧な存在なんて私は他に知らない。私が王子だったら一生愛を誓えるわ、マジで。
近くにいられるだけでも幸せだというのに…… 大方、完璧すぎるフィルミーヌ様にコンプレックスでも持っていたんでしょうね。
王子からフィルミーヌ様に上から目線で指摘できる様な箇所が全くなかったから。
だから何を指摘しても首を縦に振る様な忠実な飼い犬が欲しかったのかもしれない。そう考えるとクララ嬢も被害者よね。
そしてそんな人間を王妃にして国が回るかを考えない辺りあの王子が如何に頭が悪いかを表してるのよね。
いけない、また話が脱線しそうになってきた。
マルグリットの弱点その四。考え事がすぐに連想ゲームの様に斜め上に行きがち。気を付けないと…… 話をギルド関連に戻しましょう。
「そういえばオークと戦っていたみたいですけど、お二人の冒険者としてのランクはDくらいなんですか?」
「違うわよ。私たちのパーティーランクはEよ。普段この辺りはEランクしかいないはずなんだけどね、Dランクが現れるなんて珍しいから腕試しのつもりで挑んでみただけだったのよね。結果はあのザマだったけど……」
ルーシィさんは自嘲気味に笑っている。書籍を読んだ限りだとアリリアス大森林は森の外郭から内側に移動するにつれて高ランクの魔獣が現れるとの事らしい。
つまり彼女たちの言い分から察するにこの辺りはEとDの境界線というわけではなくEランクの領域真ん中ないしはFランクより付近だろうと推測はできる。
彼女たちのパーティーランクでEランクという事は、個人評価だと恐らくそれぞれがE以下で、もしかしたら最低ランクであるGの可能性まである。
パーティーランクを評価する場合は、パーティー全員の総合評価になるからメンバー同士の連携がうまくかみ合ってさえいれば、二段階上として見なされるケースがあってもおかしくはない。
ただ、それでも当時ソロランクでDランクだった私と彼女たちで模擬戦闘を行っても私には勝てないでしょうね。
あくまで評価の上ではだけど、それでも実際にオークに歯が立たなかったであろう彼女たちから結果は見えてる。
それだけランク間は一つ上がるたびに大きな隔たりがあるのよね。
GからFになることと、DからCになることはお互い一つずつしか上がっていないように見えるけど、数字で表すのであれば戦闘能力を一から五に上げたらランクがあがっていたのが五十から百にしなければランクが上がらない様なものだから。
ここを勘違いする人が多いからDランクで足踏みする人、命を落とす人が多い。そして私も一度そこを勘違いしてしまったクチ。
Dに上がって調子に乗ってCランク魔獣に挑んだら死にかけた経験がある……。だから私にとってCランクとは実は大きな壁でもあるわけ。
「そうなんですね。でも命さえあればいくらでも挑むことは出来ますから無理はしないようにしてくださいね」
「ええ、そうするわ。それにしてもマルミーヌちゃんはすごい強かったけど、どうやってあんなに強くなったの?」
「私の父が元冒険者で物心ついたときから手ほどきを受けましたので……」
半分本当で半分嘘。嘘をつくのは忍びないけど、これも正体を隠すためです。すみません……。
「すごいお父様なのね。お名前を聞いてみたいところだけど、マルミーヌちゃんの事情を考えてやめておくわね」
やはりルーシィさんの様な出来る女性は違う。『察する』能力が半端じゃない。チェスカさんもこの辺りは見習うべき。危うく酒の肴にされるところだったし……。
万が一、そのチェスカさんの耳に『父親は領主』なんて入った日には、翌日にはお母さまの耳にまで入ってるかもしれない。マジで注意しないと。
「そういえば、先ほど話の上がったエミリアさんとは何方かお聞きしても大丈夫ですか?」
「ええ、エミリアさんはギルドの受付嬢よ。あなたも二年後に登録するのであればお世話になると思うから今から知っておいても損はないわ。それに元冒険者上がりと聞いてるからもしかしたらアドバイスとかも貰えるかもしれないわ。正確なランクは知らないけど高ランクとか噂で聞いたわ」
それはとてもいい情報だ。少しでも強くなるために色んな強者から話を聞くだけでも勉強にはなる。
「だけど、ギルドマスターの方がもっと強いらしいわよ。実際に戦ったところを見たわけじゃないけど、何度か姿は見たことがあるの。正直に言うと蛇に睨まれた蛙と言ったところかしら。あの眼力で睨まれたら全身すくんじゃうわ。だから姿を見ても目を合わせないようにしてるの」
それ書籍で言うところの街中ではパンピーにイキってるドチンピラが歴戦の猛者が現れた瞬間に壁際に立って背景と同化するというケースと同じ感じかしら。まあ、下手に目を合わせて因縁つけられたくないものよね。
でもそれだけ強いってすっごい気になる。早く八歳にならないかしら。それまでにどれだけ強くなれるかわからないけど、一度お手合わせしたいものだわ。
「ふい~、解体終わったよ~」
「チェスカ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
「いや~、マルミーヌ様様ですよ。しばらくは足を向けて寝れませんなあ。あとルーシィは手伝え」
「私はマルミーヌちゃんとの大事な会話の最中だもの。私は私で重要な役目を担っていたの。サボっているなんて心外だわ」
「ズルい、その役目は私でもよかったはず。解体作業って身体が臭くなるから嫌なのよね。次は絶対にルーシィだからね」
「わかった、わかった。取り分は少しチェスカが多めでいいわよ。それならいいでしょ」
「なーんか、上手く丸め込まれた気がするけど、それでいいわよ」
「丸く収まったようで良かったです。それでは私はそろそろ帰宅しますね」
「あれ? 一緒に帰ろうかと思ったんだけど、ガルカダに住んでるわけじゃないのかしら?」
「はい、ガルカダから少し離れた場所に住んでます」
「そうなんだ。じゃあ、ここでお別れね。また会えるかしら」
「はい。定期的にここに通って魔獣狩りしてるので、結構会う事になるかと思いますのでその時はまた話し相手にでもなってください」
「ええ、わかったわ。また会いましょう」
「それでは、私は失礼しますね」
「「またね」」
いい話も聞けたし、なんか楽しくなって来た。魔力もほとんど減ってないし、全力で帰宅しようっと。
『魔力展開』
私は全速力でアリリアス大森林の外郭に向かって走り出した。明日以降頑張るぞー
「えぇっ、何あのスピード。もう見えなくなったんだけど……」
「まだ夢でも見てるんじゃないかと思うよ。あんな幼女がオーク一発とか普通ありえないでしょ」
「そうね。二年後までにどうなってるのか楽しみね」
「私たちは死なない様に無難に生きよう。あの子の様には無理だから」
「そうね。真似してはダメなやつね」
「「じゃあ、私たちも帰ろうか」」
本当に今日はマジのガチで死んだかと思った。九死に一生を得るとはまさにこの事だ。
幼馴染のチェスカと一緒に十五歳の時に冒険者になって丸一年が経ち、ようやくパーティランクがEランクに昇格して、実は私たちって才能あるんじゃない?
なんて穴があったら入りたい程の恥ずかしい勘違いをしてしまったのだ。エミリアさんからは散々釘を刺されていたはずなのにだ……。
『ランクの上がりたてが一番調子に乗りやすいタイミングだからこそ油断はしないように! いきなりモンスターのランクを上げないで普段の行動を守るように注意してくださいね』
早速ガン無視しちゃってるよ。普段と同じ行動を取っていたつもりが、少しだけ、いやちょっとだけ、気持ち程度? Dランクモンスターが出現しそうな場所に移動していたかもしれない。
なんて思っていたら……
あ! やせいの オークが とびだしてきた!
本当にエンカウントしてしまった。Dランクモンスターであるオーク。がっしりとした体格で上背は二メートル半から三メートル程の大きさだろうか。自分の胴体ほどの丸太の様なこん棒を担いでいた。
こんなもので殴られた日には、頭が『ッパーン!』って弾けること間違いなし! 正直に言って身体は震えていた。でも私たちなら出来るんじゃないかって、心のどこかで思ってしまっていた。
きっとチェスカも同じ気持ちだったと思う。だからお互いに顔を見合わせて無言のまま首を縦に振る。
初めて対峙する相手との戦い方はいつもと同じで私が前衛として敵の気を引き付けて、その間にチェスカが得意魔法でありチェスカが今使える最大の魔法でダメージを与える。
倒しきれなかったら私が止めを刺す。これが私たちの戦い方だ。チェスカが二、三歩下がって魔力を貯め始める。
初めて対峙してみてわかった事はコイツの間合いに入って、巨大なこん棒が自分に降りかかって来た時は避ける自信がない。間違いなく死ぬ。
そんなことを考えたせいか、心臓の鼓動が自分の意思とは関係なく高鳴っていく。それを落ち着かせるために短い呼吸を何度も繰り返した。
私はオークから攻撃を受けない様に間合いに入らない様に若干遠めの場所から大きな足音を立てて少し相手の間合いに入ったり、届かないとわかっている剣をオークの顔を目掛けて振ったりしていた。
だって正直こんな奴とガチでぶつかり合ってたら私の身が持たないんだもん。いつもだったらもうすぐ魔力充填が完了するからそれまでの辛抱だ。
そう思っていた矢先、オークは私が間合いに入らないとわかったのか標的をチェスカに変更した。
ヤバイと思った焦った私は間合いとか頭になく、ターゲットを私にを向けさせるために、私の剣が届く位置まで飛び込んでいた。
その直後、オークはこちらに突如振り返り、すでにこん棒を振り上げていた。
罠だったのだ。私を間合いにおびき寄せる為……。オークってこんな頭が良かったのかと感心するべきなのか、私の頭はオーク以下なのかと絶望する間もなく、こん棒は既に振り上げられていたのだ。
本能的に『死んだ』と思った私は全身から血の気が引いていくのを感じていた。そのせいなのか、足が震えだし、軸足のバランスを崩して倒れてしまった。
倒れたと同時に目の前で大きな鈍い音がなったのを聞き逃さなかった。
音の方を見てみると、私の足のつま先数センチ程の位置にこん棒が振り下ろされており、地面が抉れていた。
私は息をすることを忘れて、抉れた地面を眺めていた。
もし、この位置に自分がいたら…… そう考えたら呼吸をすることをその瞬間忘れていた。
「準備出来た!」
チェスカの声で我を取り戻した私は巻き添えを食らわない様にチェスカが魔法を使う直前に死にかけた昆虫が如く四つん這いのまま範囲から急いで離脱した。
『爆炎下級魔法』
チェスカの得意にして現在使える最大の威力を誇る爆炎系の魔法。下級とは言え、Eランクの魔獣なら数体をまとめて燃やし尽くす威力がある。
これならさすがのオークも…… と思っていたのに爆発によって発生した煙の中から出てきたのは表面上に火傷のが跡がいくつか見られるものの、ほとんどダメージを負っていないであろうオークの姿だった。
噓でしょ……? EからDになっただけでこんなに違うものなの? FからEに上がった時はそうでもなかったじゃん……。
オークが標的を完全にチェスカに変更したみたいだ。
マズイマズイマズイ。私は震えている足を叩いて、無理やり立ち上がった。
「させるかあああああああ」