悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

 一旦、屋根にでも退避して様子見。バレませんようにっと。
 
「うぃ~、早く来ねえと俺らがいつまでもここにいなきゃいけねえじゃねえかよ」

 外に出た賊は立ったまま用を足しているのが私の視界上に残っていた。
 
 ひぇ~、男性ってこうやって用を足すのね。ってちがーう、これ以上は見たいわけじゃない!
 
 背筋が凍る思いだわ。鳥肌が全身に立ってくる。けど、一人仕留めるなら今がチャンスね
 
 うぅ~、触りたくないけど今は仕方ない。帰ったら即お風呂に入らないとね。
 
認識阻害魔法(インビジブル)
 
 私は小屋の賊たちにバレない様に外に出た男にコッソリ近づいて『音』が止まるまで待機した。
 
 いや、だって跳ねてるんだよ? 絶対に近づきたくないでしょ。
 
 これ以上近づいたら地面に流れたアレを踏んでしまうかもしれないけど贅沢はこれ以上言っていられない。
 
 『音』が止まった瞬間に私は背後から一気に近づいて両手で頭を掴んで、一瞬で首の骨をへし折った。
 
 倒れた音を聞かれたくないため、仕留めた賊をゆっくりと小屋の中から見えない位置まで移動させる。
 
 もう一度小屋の窓際付近まで移動して奴らの会話を聞き取ろうとするが
 
「おい、ペンダントの色が変化した。外に出たダグがやられたくせえな。すぐそこに敵がいるぞ」

 ペンダント? 何それ? もしかして仲間の生死でも確認できる魔道具かしら。でもバレたら仕方ないわね。あいつらは今ドアの方に注目しているはず。
 
 私は一旦屋根に上って、屋根をぶち壊してから残りを襲うことにした。
 
「ハァッ!」

 私はオンボロの屋根を破壊すると同時に手前にいた賊の一人目の首をへし折る。
 
「なんだっ?」

「なんか今いたぞっ」

 思った以上に小さいからバレにくいのね。
 
 私は一人目を仕留めた直後にバレにくいようにテーブルの下を経由して二人目の『股間』を一気に蹴り上げた。口から泡を吹いて倒れていく。
 
 嫌な音がしたし、この感触はさっさと忘れたい…… お風呂入りたい。
 
「いたっ、ガキだと?」

 賊たちは見ている光景が信じられないかのように私の事を見つめていた。

「ねえ、教えてくれない? ここにいるのは貴方たち五人だけなのかしら? 貴方たちの言うカシラってここにはいないのかしら?」

「なんだ、お前は? 運び屋? ちげえか、運び屋は男だと聞いているからな。もしかして荷物の方か? 
 にしても随分小綺麗な恰好してやがるな。しかもかなり上玉じゃねえか。外にいたダグをやったのもお前か?」
 
 質問に質問で返さないでほしいわね。しかも質問多すぎだし…… まあ、すんなり答えるとは思っていないけど。
 
「外にいた男を仕留めたのは私よ。私がここに来た理由は貴方たちが言う運び屋から、ここの場所を聞き出したからよ。
 運び屋は衛兵に捕まったし、荷物と呼んだレディは無事に保護したわ。私は答えたのだから貴方も答えなさい」
 
 男は汚らしい表情で『ニヤッ』とすると、残りのもう一人に合図を出していた。
 
「いまだ、捕まえろ」

 私と会話をしている最中に私の真後ろに迫っていたようだけど、なんで私が気づかないと思っているのであれば大間違いよ。
 
 かつて学園で『意思疎通の取れる魔獣』と呼ばれた私が近場の人間の気配に気づかないわけないわ。
 
 私の真後ろにいた男は私を殴って気絶させるつもりか、木の棒を振り上げていたが、そんなものはお見通しである。
 
 バックステップで真後ろにいた男の股の間を搔い潜り、手の届く範囲にあった木で出来た椅子を持ち上げて男の後頭部に思いっきり叩きつけて倒した。
 
「残念ね、麗しの幼女だと思って甘く見たのが運の尽きね」

「さて、次は私の話を聞いてもらえる番よね? 答えなさい、カシラはどこ? ここには貴方たち五人しかいないの?」

「そうだ、お前がカシラの何かは知らねえが、もうここには来ねえぜ?」

「どういうこと?」

「俺たちがつけてるペンダントはな、人間の心臓の鼓動を感知してから起動する。
 起動後に一度でも心音が停止すると判断された場合はペンダントは色を変色させる。
 仲間内でつけてるやつにも異常が発生した場合は、その内容が共有されるから俺たちにも伝わる。
 それと同時に俺たちの本隊にもその連絡がいくってわけだ。だからここの仕事でしくったと本隊は判断してるはずだ。
 よってここにはもう誰も来ねえってわけさ」
 
 まさかそんな高性能な魔道具を所持していたとは…… 
 
 足がつかないようにするためとはいえ、こいつ等が十年以上もこんな仕事を続けていられた理由はこれなのかもしれない。
 
 思った以上にやっかいな相手ね。振り出しかな…… いえ、前回と同じであれば八歳になれば本体がグラヴェロット領に現れるはず。
 
 そこまでお預けかしらね。
 
「そう、ならもういいわ。私は『赤狼の牙』は壊滅させるつもりなの。
 つまりあなたにどんな事情があったとしても生きてこの森から出られることはない」
 
「舐めるなよ、ガキィ」

 男は背中に隠し持っていたであろうナイフを投げつけてくる。
 
 私がそのナイフを避けると同時に男は壁に立てかけてあった剣を抜いて私に切りかかってくる。
 
「遅すぎる」

 私は剣を躱しつつ懐に飛び込み魔力を込めた拳を男の腹部に思いっきり打ち込んだ。
 
 腹部には穴が開き、反対側がくっきり見えていた。男は最後の言葉も残せないまま倒れた。
 
「ふぅ、終わったはいいけど結局の成果も得られなかったわね。赤服もここには当分来ないだろうし…… 
 前回はここでの誘拐の結果は私がいない以上、防げていないって考えると今回の八歳の時にちゃんと来てくれるのかしら?」
 
 私は一抹の不安を覚えながらも森を後にした。
 
 そして、私は戻った後で結局起きれなくてナナのお説教を沢山頂くことを今はまだ知らない。
どうも、ごきげんよう。無事に六歳になりました。大人の階段上る令嬢マルグリットです。
 
 『赤狼の牙』の別動隊を叩き潰してから半年が経過しました。あれからも訓練は続けていたため、日々成長できている実感はあります。
 
 かねてより考えていた六歳になったらドキッ!魔獣だらけのパラダイス『アリリアス大森林』で魔獣界デビューをして腕を磨こうと考えていたわけです。
 
 前回の人生では引きこもっていたから知識としてはあるけど行くのは初めてなのよね!
 
 場所はガルカダの南西で『魔力展開』で走っていけば十分に日帰りが可能な距離なのよね。
 
 というわけで既にアリリアス大森林まで来ているのだけど、初めて見た感想やっぱり大きいわね。すでに端から端が見えない程に遠いところにあるのね。
 
「それにしても気持ちいいわね。どうしても森に来ると森林浴気分になってダメね。裏の森と違って魔獣が生息しているのだから油断は禁物なのに」
 
 私が森に入って気が抜けそうになった直後の事に人の声が聞こえた。
 
「「ひええええええ、お助けえええええええええ」」

 え? 聞き間違えかしら? こんな素っ頓狂な助けを求めるセリフは書籍に登場する馬鹿丸出しの三枚目がヘマをした時くらいのものかと思ったけど現実に言う人いるんだ……。
 
 『ぎゃふん』並みのレア度を感じるわ。
 
 女性の声だったけど、どんな愉快な人がこんな叫びをあげたのかとても気になるわ。助けに行ってみましょう。
 
 私は声のする方向へ走り始めたが、向かう途中にも色々叫んでいた。
 
「私たちは美味しくないから~~~~~」

「豚に犯されるなんて嫌すぎるうううううう」

 複数の女性の声が聞き取れたわ。内容から敵が何なのか理解したけど、それだけ叫ぶ元気があるならその状況をなんとかしようと思わないのかしら?
 
 声がどんどん近づいてきている。
 
 ……見つけた。二人の女性が地べたに座り込んでいる。風貌的に一人は鎧と盾や剣を持っている前衛、もう一人は如何にも魔術師という恰好をしているから後衛かしら。
 
 相手はやはり『オーク』。Dランクモンスターではポピュラーなモンスターだ。
 
 オークと言えば学園時代の私とフィルミーヌ様の仲を取り持ってくれた某サイモン氏。
 
 もちろん思い入れはあるので、ぶちのめすには些か抵抗もありますが、人命が掛かっているので仕方ないわね。
 
 私が学生時代にDランク冒険者だったからオークをソロで倒せる力量は既にあった。ただし、一度に複数となると結構キツイ感じ。
 
 今の私はどのくらいの力で倒せるんだろうか。かなり興味がある。
 
 私は一気に駆け抜けて、彼女らとオークの間に割り込んだ。
 
「ご無事ですか?」

「神が遣わしたもう天使降臨? 違った、幼女だった」
 
「お礼にハグしたい…… そうじゃなくて、なんで子供がこんなところに?」

 オークに殺されかけたり、突然の見知らぬ人物による介入があったらもっと錯乱してもおかしくないはずなのだけど
 
 思ったより余裕あるわね、この人たち……
 
「立てそうですか?」

「腰が抜けてるからもう少し待って」

「危ない、後ろ!」

 私が二人に話しかけている最中は身体を二人の方に向けていたため、当然オークから見たら背中を向けている。
 
 オークはチャンスと思っているのか、こん棒の様な物体を振り上げている。
 
 なんのデジャヴかしら、似たような襲われ方を半年ほど前にされたわね。
 
「ダメ、間に合わない」
 
 女性二人は私の回避が間に合わないと悟ったのか本能的に顔を手で覆い隠していた。

 私の方はもちろん、最初から回避するつもりは全くないの。せっかくだから実際に受け止めてみて、ダメージはあるのか? 衝撃はあるのか? 今の私は当時の私と比べてどのくらい変わってるのか? 
 
 それを確認したくて攻撃させてみたというところかしら。
 
 私はこん棒が降ってくるであろうポジションに手を広げて腕を突き出していた。振り下ろされたこん棒は私の手のひらと衝突し、お腹に響くような鈍い重低音が周辺に鳴り響いた。
 
「あら、大袈裟な音量でしたが、思ったより威力は大したことありませんのね」

 予想に反して、私の身体に衝撃と言える様なものはあまり感じられなかった。

 私は受け止めたこん棒を握るとと私の手のひらの範囲にあった箇所は抉れていた。
 
「ごめんなさい、ついつい力が入っちゃいましたわ。あなたの大事な武器の一部をおがくずにしてしまいました。許してくださるかしら」

「脳筋幼女!」

 それは褒めてるのかしら? 貶されてるのかしら?
 
「最後にいいものが見れたわ」

 いえ、助けに入ったのだから死ぬ気満々でいられても私が困ります。

「ブヒィ――――!」

 武器を片手で受け止められようが、握りつぶされようが、オークの闘志は燃え尽きてはいなかった。
 
 私に一矢報いてやろうと考えているのか、両腕で私を掴もうとしていた。
 
「『当たらなければどうという事はない!』ですわよ」

 書籍の引用するくらいの余裕を見せつつ、オークの迫りくる両腕を跳躍して回避する。
 
 そのままの勢いでオークの側頭部に蹴りを入れると、オークは蹴りの勢いで身体ごと吹っ飛んで行った。
 
「今の感触だと首の骨もポッキリいってるでしょうから、解体するならどうぞ。オークの素材は私には不要なのであなたたちの自由にして構いませんよ」

 女性二人はまるで時が止まったように目を見開いて、口をぽっかり開けて私の事を見ていた。
 
「めちゃくちゃ強っ、本当に人間? 人間の皮を被った高ランク魔獣とかじゃないよね?」

 散々な言いようである。まあ、魔獣扱いされるのは慣れてるからいいです……。
 
「えー、勿体ないよ! それに君が倒したのだから所有権は君にあるんだよ。私たちは何もできなかったしね」

 正直言うと私はオーク程度の素材で小銭を稼ぐことは特に考えていなかっただけ。
 
 今回も国外追放されたと仮定して、お金を稼いでおく事ももちろん重要だと考えてるんだけど、今分かってる限りだと無事に国外に出れるかが最も大きな壁だから強くなることが何より最優先。
 
 それに強くなればよりランクの高い魔獣を狩れるようになるから必然的に買取料金も上がっていくからそっちの方が最終的に稼げる金額は大きいと思う。

 せめてCランクからよね。前回の私はCランクなんて無理だったし、DランクとCランクが一つの壁みたいなものだから価格も一気に上がるんじゃないかと思ってる。
 
 それに彼女たちに素材を譲るのにも理由はある。
 
「構いません。その代わりと言っては何ですが、少しお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

 そう、このアリリアス大森林で現役の冒険者をやっている彼女らに話を聞いてみたいのだ。
どうも、ごきげんよう。豚の屠殺ならお任せください。こんな事をしていると本当に貴族令嬢だったっけ?などと自信を無くそうな幼女マルグリットです。
 
 豚さんがキッカケで出会った現役冒険者であるお姉さま方にこの土地ならではの話を聞こうと思い、只今ヒアリングをするところなのです。

「話? そんなものでいいなら私たちから答えられるものがあれば何でも答えるよ」
 
「そうね、オークも貰っちゃったし、解体しながら話してもいいかしら?」

「ええ、もちろんです」

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はルーシィ、こっちのローブを着た子がチェスカよ」

 ふむふむ、戦士のお姉さんがルーシィさん、魔法使いのお姉さんがチェスカさんね。
 
「申し遅れました、私はマル……」

 本能的に嫌な予感がした私は名前を発する途中で脳みそをフル回転させていた。

 マルグリットって普通に言ったら色々まずくない?

 年齢までは言ってないけど、幼女でそれなりの恰好をしたマルグリットなんて街で噂になったりでもしたら、遠くないうちに領主の娘って特定されてしまうのでは? 
 
 というか万が一にでも家族の耳でも入ってしまったら私に行きついてしまうかもしれない。
 
 まだ私は身体の弱いご令嬢で通ってるの。何れはバレるかもしれないけど、さすがに今はまだその段階じゃないの。
 
 せめて…… うーん、十三歳から十五歳くらいならまあしょうがないかなとは思うけど、今の時点はさすがにマズイ。
 
 だってまだ六歳よ? 麗しき六歳の幼女がオークをワンパンよ? さっきはパンチではなくキックだったからワンキク? 我ながらダサいネーミングね。
 
 ともかく六歳がオークを倒すこと自体、噂にならないわけがない。
 
 それに六歳の時点でオークを一撃ってお父さまの耳にでも入ったらどうなるのかしら? 
 
 お父さまは元々冒険者だったし、大喜びで『さすが私の娘』とか言うくらいで私にとって大きな影響にはならなそうだけど…… あくまでお父さまでの話の場合よ。
 
 大問題なのはお母さまの耳に入った時だわ。お父さまの耳に入ったら当然嬉しそうに当然家族にも娘の大活躍(?)を語るでしょうね。
 
 そうなった場合、お母さまからしたら淑女としてあるまじき行為として冒険者活動禁止どころの話では済まなくなってしまう。
 
 顔面に青筋立てて本気の淑女教育が開始されてしまうでしょうね。身体が実は弱くなかったという虚偽についても問い詰められそう。
 
 そして私の苦手なお茶会だの連れまわした挙句、成人前にマジのガチで社交界でデビューさせられてしまうかもしれない。
 
 私だって貴族令嬢だから嫌でもそれをいつかはやらなきゃいけないことはわかってるの。でもそれは今じゃない。フィルミーヌ様とイザベラを今度こそ守りきるまでは……
 
 それまでは本気で勘弁してほしい。あの空気って本当に苦手なの…… あそこに参加している人たちって何が楽しくてキャッキャウフフしてるのかしら?
 
 当時の私は身体が弱いだけじゃなくて引っ込み思案で人見知りが激しかったから、それを見かねたお母さまが他人との接し方を覚えさせるためにお兄さまと一緒にお茶会への強制参加させられたことがあったけど、あの周りの品定めしてやろうという目線がもうダメ。見られてるだけでも苦痛なのにあれはないわ。しかもよくわからない絡まれ方されたし、二度と行くまいと誓ったんだったわ。
 
 ハッ、いけないいけない。どんどん脱線して来てる。
 
 名前よ! 名前をどうするのか考えないと。兎に角、マルグリットのままじゃダメ。
 
 一旦仮の名前にしましょう。偽名ってやつね。なんかカッコいいわ。
 
 『マル』まで発言しちゃったからマルなんたらにしないとダメね。
 
 まる…… マル…… MARU…… 
 
 うーん、思いつかないいいいいいいいいい。
 
 私に良い知恵を! 助けて、イザベラ、フィルミーヌ様
 
 マルグリット……
 
 イザベラ……
 
 フィルミーヌ……
 
 ハッ! その時、私に神が舞い降りた。
 
「……ミーヌ」

「え?」

「ごめん、なんか聞き取れなかったんだけど」

「マルミーヌです……」

 二人ともポカーンと口を開いていらっしゃる。わかる、わかります。言いたいことはわかります。

 ごめんなさい、フィルミーヌ様。自分で言うのもなんですが、めちゃくちゃダッサ。
 
 何このセンスの欠片もない名前。少しでもフィルミーヌ様にあやかりたいなぁなんて欲を出した罰だわ。
 
 穴があったらはいりたーい。書籍とかだと主人公とライバルが合体したら強くなるとかあるでしょう? 
 
 ところがどっこい、私の場合は完全に弱体化してるわ、マジで! むしろマイナス要素まで感じられるわ。
 
 『混ぜたらキケン』とかラベルの薬品とかあったけど、まさにこの事ね! 
 
 『それを混ぜるなんてとんでもない』とかこんな場所では誰も注意してくれないし、しょうがないわね…… 諦めましょう。
 
 いつかまたフィルミーヌ様にお会いするときが来たら、やってはいけない『悪魔合体』してしまったことをお詫びしないといけないわね。
 
 結果としてフィルミーヌ様に『ワタシオマエマルカジリ』と言われても素直に受け入れるしかないわね。
 
 あの人はそんなこと絶対言わないでしょうけど。
 
「えっと、個性的で素敵な名前ね?」
 
「『マル』の時点で大分長考していたみたいだけど、もしかして今考えた感じ?」

 ストレートにぶっこんで来たチェスカさんにルーシィさんは『察しろ』と言わんばかりに肘打ちをチェスカさんの脇腹に食らわしていた。
 
「あんたね、こんな幼くて可愛らしい子供のケリでオークの首をへし折りました所を見ましたなんてギルド内で言ってみなさい。街中で一気に噂が広がるわよ」

「その前に誰も信じなくない? エミリアさんとかギルドマスターに言ったら将来有望な人材って喜んでくれそうだけど……」
 
「大多数はね、一部でも信じる奴が出てきて、その中にマルミーヌちゃんを利用しようとする奴がいたらどうするのよ?
 こんな幼い子供がこんな所で魔獣狩りしてるなんて余程の訳アリだわ。そりゃ偽名も使いたくなるわよ。
 それ以上に命を助けてもらった恩があるのに仇で返そうとするなんて私が許さないわよ」
 
 あんな頭の悪そうな悲鳴を上げておいて、思ったより思考はまともな方だわ。
 
「わ、わかってるわよ。別に酒の肴にしようだなんて考えてないから」

 いや、絶対考えてたでしょ、貴方。