悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

「なっ、なんだ、お前! ど、どこから出てきやがった?」

「質問しているのはこちらです。今あなたが口にしていた『赤狼』について知っていることを全て答えなさい」

「何言ってんだ、ガキ! 手を放せや、これ以上は遊びじゃ済まねえゾ、コラ!!」

 喋る気が無さそうな誘拐犯を見た私は、首に手をかけて少し力を入れる。
 
「……ア゛ッ…… ガッ……」

 私は首にかけた手の力を抜いて誘拐犯が喋れるように改めて確認した。
 
「お猿さんには人間の言葉が通じないのかしら? 『赤狼』について知っていることを全て話してくださいと言っているのです。」

「ア゛ァ゛ッ? ガキィ! なんでテメエが『赤狼』の旦那を知ってるかはわからねえが、いまなら母親を犯るくれえで許してやる。これ以上は親兄弟をテメエの目の前で(バラ)すことになんぞ、どけってんだよ!」

「あなた、思った以上に素人さんなのですね。脅しのやり方が全く分かってないのかしら? こういう反抗するお馬鹿さんには身体に聞くのが一番なのですよ」

 私は押さえつけていた手の人差し指を握ると躊躇いなく関節駆動域の真逆に思いっきり倒した。
 
 拍子に鳴り響いた乾いた音が静まり返っていた部屋中に蔓延した。誘拐犯は苦痛の表情を浮かべ、私はそれを見て笑みを浮かべていた。
 
「しょっ、正気かああああ! テメエエエエ!」

 私はもう少し意地を張る気概は見せてくれる予想をしていたけど、受け答えが想定と違っていて誘拐犯の言動と表情に余計に可笑しくなってしまった。
 
「あら、骨の一本でこの様とは…… あなたやはりこの仕事向いていないのではなくて? それに、まだ喋りたくないならそれでも結構。まだ手と足合わせて十九本残ってますから」

 誘拐犯は青ざめた表情と脂汗を流しながら震えだしていた。
 
「別に話したくなければそれでもいいのですよ? 残り十九本全てへし折られて無理やり吐かされてから衛兵に突き出されるか、今のうちに吐いて他の骨は無事なまま衛兵に突き出されるかの二択です」

「わ、わかった。話すから、これ以上の骨は勘弁してくれ」

「賢明な判断をして頂いて安心しましたわ。では、こちらからひとつ確認します。『赤狼』とは『赤狼の牙』の事で間違いないですか?」

「そ、そうだ」

「わかりました。やはり間違いではないようです。『赤狼の旦那』とやらについてお話しいただけますか?」

「あぁ、仕事がなくて困っていた時に酒場で話しかけられたのがキッカケだったな」

 彼が語った内容によると、赤狼との出会いから仕事の斡旋について、仕事が完了した後の物資と金銭の交換などの話を聞いた。

「なるほど。仕事…… 今回で言うところのそこで眠っている少女の誘拐をしてガルカダの南東にある森の中の小屋まで連れて行ってあなたは代わりに金銭を受け取るという事ですね。ちなみに何故あの少女を狙ったのか聞いてもよろしくて?」

「あの娘じゃなきゃいけないって訳じゃねえさ。年頃の娘であれば誰でもよかったんだ。たまたま人気の少ねぇ場所にあの娘と弟らしきガキがいて、周りには誰もいなかったから仕事がしやすかっただけだ」

「そして捜索に当たった私に出くわしてしまったという事ですね」

「とんだ厄日だぜ、お前さんみたいな見た目が幼女で中身が魔獣とはな」

「あら、魔獣呼ばわりとは淑女に対する評価ではありませんわね。それで、仕事が上手くいった場合の取引はいつを予定していますの?」

「明日の夜だ。だから出来れば早め、つまりは今日の内に街を出たかった訳だ」

「わかりましたわ。では、あなたもそろそろお休みなってどうぞ。『睡眠魔法(スリープ)』」

 私は眠らせた誘拐犯の身体を部屋で見つけたロープで縛り、少女を担いで救出した。
 
 民家を出て、近くにいた衛兵に事情を説明して、誘拐犯がたまたまあの部屋で眠っていることにして確保してもらった。
 
 その後、詰所にいるであろうナナと少年の元に姉を送り届けた。
 
「おねえちゃあああん」

「マークも無事でよかったわ。助けて頂きまして本当にありがとうございました」

「いえ、姉弟共に無事でなによりです」

 よしよし、姉弟も無傷だったし全てがまーるく収まった…… と思いきや、ナナさんが怒りの表情でこちらを見ている。
 
「お嬢様? ナナとあれだけ約束して頂いたはずですよね? ぜーったい危険な真似だけはしないって」

「ナナ、聞いて頂戴。偶然にも誘拐犯の居場所を特定してしまったら、何故か偶然にも誘拐犯も女の子も二人とも寝ていたのよ。そして、意を決した私は女の子を連れ去り、衛兵に伝えたってわけ。何もおかしなことはないでしょう?」

 ナナが首を傾げている。クッ、まだダメそうかしら。

「そもそも五歳のお嬢様がどうやって年上の女の子を連れ出したのですか? 運ぶにも身体の弱いお嬢様にそんな力ありましたっけ?」

 さすがに魔法使っちゃいましたなんて言えるわけがないし。身体が弱い設定はそのままにしておきたいし…… どうする? どうすればナナに力が弱くても運べるか説明が……あ、そうだわ。

「マ、マットレスよ。マットレスを階段に敷いて、その上にあの子を載せて一気に滑り降りたわ。そこから近くにいた衛兵に頼んで運んでもらったのよ」

 やはり苦しいか、そんな降り方できたにしろ勢いで投げ出されたら危ない事に変わりはないから。でも、魔法の事をバラすより百倍マシだわ。

「ムムムッ、そんな危ない降り方をしたのですか? ……結果として無事だったから今回はヨシとしますぅ。でも今回だけですよ?」

 ナナが思ったより早く引き下がった……。 もしかして、少女の捜索という危険な任務を買って出た私の事を気遣ってくれたのかしら。
 
 でも、本番は明日。夜、みんなが寝静まった頃にお祭りのフィナーレを迎えるとしましょうか。
 
 待っていないさい赤服。あの時の借りを返してあげるわ。
~ 翌日 ~

「お嬢様~」

「……」

「お・じょう・さ・ま―――――」

「……ハッ! どうしたの?ナナ」

「さっきから話しかけてるのにずっと上の空みたいでしたので何かあったのかと思いましたぁ」

 そうだよ~、今日の夜に賊に襲撃を仕掛ける事ばかり考えてました。てへっ! なんてナナに言えるわけがない。
 
 世界のどこに五歳児が賊を襲う気満々ですなんて危険物がいるのよ。まあ、ここにいるわけですが。
 
 という作戦当日の朝っぱらから物騒な事を考えている危険物取扱者乙種もとい危険物扱い令嬢マルグリットです。
 
「お嬢様、またブツブツ言ってますよ。心の声が漏れ過ぎでは? 気を付けてくださいねぇ」

 マルグリットの弱点その二。考え事をしている最中に頭の中身が口から漏れ出す。
 
 そういえばフィルミーヌ様にも言われたなあ、ナナはすぐに察して『心の声が漏れ出てる』なんていうけど、フィルミーヌ様の場合は『マルグリット? あなた突然何を言い出してるの? 大丈夫?』なんて私の頭の心配をしてくれるとても優しい方。
 
 イザベラは口に出さなくても私の頭の中身が表情で伝わってるみたいで、すぐに訴えかけてくる超人技を披露してくる。
 
 故に今日のイベントはフィルミーヌ様とイザベラの弔い合戦でもあるわけです。いやでも気合が入ってしまいますね。
 
 よくよく考えたら、おかしな所があるのよね。前の人生では『赤狼の牙』がグラヴェロット領に現れたのは私が八歳くらいの頃だったはず。
 
 今回の件はただ表に出てないだけで実は前からグラヴェロット領にいたって事かしら?
 
 ということは、今回の被害者は一人だったからバレなかった。細かい事件を繰り返して、耳に入りにくいようにしていたのかしら?
 
 それも今日に襲撃すれば全てわかるって事よね。
 
 よーし、みんなが寝静まった頃にコッソリ抜け出して目的地の森まで一気に突っ走る。賊をボコしてまた帰ってくる。
 
 朝までに帰ってこれるかしら…… 
 
 今のうちに仮眠でも取っておこっと。
 
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「さて、ご飯も食べたしお部屋で読書の続きでもしてようかしら」

「ムッ、お嬢様。今随分な棒読みになってましたが何か企んでますか?」

 クッ、バレずにやり過ごそうと思った事を意識しすぎて逆に裏目に出るとは……
 
「そ、そんな事ないわよ。もう夜だし、部屋に戻って本を読むこと以外出来る事なんて他にないわよ」

「ムムッ、まあいいです。あまり遅くならないようにお願いしますね」

「わかったわ。明日もちゃんと起きるから」

 案外私って即興の演技が下手くそなのね…… これはマルグリットさんの弱点その三にでもなりそうだわ。
 
「一旦ベッドに潜ってみんなが寝静まるまで待とうかしら…… 寝ないように気を付けないと…… 寝ない…… ように…… ZZZzzz」



……………………
………………
…………
……


「ハッ!! ヤッバ、寝ちゃった…… なんでこういう時に限って人は寝るんだろう」

 にんげんだもの まるぐりっと。
 
「書籍のポエムを引用してる場合じゃなかったわ、急がないと!」

 さっさと着替えてっと…… ヨシッ、窓からコッソリ出るわよ。
 
 さて、ここからは一気にダッシュでガルカダの南東の森まで行くわよ。
 
『魔力展開』


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 さて、南東の森まで来たけど、思ったより魔力も減ってないわね。日頃の訓練の賜物というやつね。

 どの辺にいるのかしら? 森の中央付近まで行ってようかしら。
 
 中央付近を目指して走ってみるもののそれらしき建物も人の気配もなさそうだと思った矢先
 
 ん? 灯りが見えてきたわね、あそこかしら。
 
 バレないようにコッソリ近づいてみると灯りの発信源はどうやら小屋からみたい。
 
 小屋の窓をバレない角度からのぞいてみると、見た感じ量産型とも言える風貌の賊が五人いる。
 
 赤服がいない? というか人数が少ない。もしかして別動隊かしら?
 
 聞き耳を立てていたら中の声が聞こえてきた。
 
「おっせーな、運び屋の野郎」

「仕事しくじったかぁ?」

「もしくは、お愉しみすぎて時間かけてんかもしれねーな」

「いきなりキズモノにしてたらカシラにぶち殺されんぞ」

 カシラってのが赤服の事っぽいわね。

「早く来ねえと、俺らはいつまでもここにいなきゃいけねえじゃねえかよ」

 今の話を聞く限りだとこいつらは只の受け取りをするための人員って事かしら? 等と考えていたら……

「飲み過ぎたから外で小便してくるわ」

 ヤバッ、一人外に出てきちゃうじゃん。
 
『魔力展開』
 
 一旦、屋根にでも退避して様子見。バレませんようにっと。
 
「うぃ~、早く来ねえと俺らがいつまでもここにいなきゃいけねえじゃねえかよ」

 外に出た賊は立ったまま用を足しているのが私の視界上に残っていた。
 
 ひぇ~、男性ってこうやって用を足すのね。ってちがーう、これ以上は見たいわけじゃない!
 
 背筋が凍る思いだわ。鳥肌が全身に立ってくる。けど、一人仕留めるなら今がチャンスね
 
 うぅ~、触りたくないけど今は仕方ない。帰ったら即お風呂に入らないとね。
 
認識阻害魔法(インビジブル)
 
 私は小屋の賊たちにバレない様に外に出た男にコッソリ近づいて『音』が止まるまで待機した。
 
 いや、だって跳ねてるんだよ? 絶対に近づきたくないでしょ。
 
 これ以上近づいたら地面に流れたアレを踏んでしまうかもしれないけど贅沢はこれ以上言っていられない。
 
 『音』が止まった瞬間に私は背後から一気に近づいて両手で頭を掴んで、一瞬で首の骨をへし折った。
 
 倒れた音を聞かれたくないため、仕留めた賊をゆっくりと小屋の中から見えない位置まで移動させる。
 
 もう一度小屋の窓際付近まで移動して奴らの会話を聞き取ろうとするが
 
「おい、ペンダントの色が変化した。外に出たダグがやられたくせえな。すぐそこに敵がいるぞ」

 ペンダント? 何それ? もしかして仲間の生死でも確認できる魔道具かしら。でもバレたら仕方ないわね。あいつらは今ドアの方に注目しているはず。
 
 私は一旦屋根に上って、屋根をぶち壊してから残りを襲うことにした。
 
「ハァッ!」

 私はオンボロの屋根を破壊すると同時に手前にいた賊の一人目の首をへし折る。
 
「なんだっ?」

「なんか今いたぞっ」

 思った以上に小さいからバレにくいのね。
 
 私は一人目を仕留めた直後にバレにくいようにテーブルの下を経由して二人目の『股間』を一気に蹴り上げた。口から泡を吹いて倒れていく。
 
 嫌な音がしたし、この感触はさっさと忘れたい…… お風呂入りたい。
 
「いたっ、ガキだと?」

 賊たちは見ている光景が信じられないかのように私の事を見つめていた。

「ねえ、教えてくれない? ここにいるのは貴方たち五人だけなのかしら? 貴方たちの言うカシラってここにはいないのかしら?」

「なんだ、お前は? 運び屋? ちげえか、運び屋は男だと聞いているからな。もしかして荷物の方か? 
 にしても随分小綺麗な恰好してやがるな。しかもかなり上玉じゃねえか。外にいたダグをやったのもお前か?」
 
 質問に質問で返さないでほしいわね。しかも質問多すぎだし…… まあ、すんなり答えるとは思っていないけど。
 
「外にいた男を仕留めたのは私よ。私がここに来た理由は貴方たちが言う運び屋から、ここの場所を聞き出したからよ。
 運び屋は衛兵に捕まったし、荷物と呼んだレディは無事に保護したわ。私は答えたのだから貴方も答えなさい」
 
 男は汚らしい表情で『ニヤッ』とすると、残りのもう一人に合図を出していた。
 
「いまだ、捕まえろ」

 私と会話をしている最中に私の真後ろに迫っていたようだけど、なんで私が気づかないと思っているのであれば大間違いよ。
 
 かつて学園で『意思疎通の取れる魔獣』と呼ばれた私が近場の人間の気配に気づかないわけないわ。
 
 私の真後ろにいた男は私を殴って気絶させるつもりか、木の棒を振り上げていたが、そんなものはお見通しである。
 
 バックステップで真後ろにいた男の股の間を搔い潜り、手の届く範囲にあった木で出来た椅子を持ち上げて男の後頭部に思いっきり叩きつけて倒した。
 
「残念ね、麗しの幼女だと思って甘く見たのが運の尽きね」

「さて、次は私の話を聞いてもらえる番よね? 答えなさい、カシラはどこ? ここには貴方たち五人しかいないの?」

「そうだ、お前がカシラの何かは知らねえが、もうここには来ねえぜ?」

「どういうこと?」

「俺たちがつけてるペンダントはな、人間の心臓の鼓動を感知してから起動する。
 起動後に一度でも心音が停止すると判断された場合はペンダントは色を変色させる。
 仲間内でつけてるやつにも異常が発生した場合は、その内容が共有されるから俺たちにも伝わる。
 それと同時に俺たちの本隊にもその連絡がいくってわけだ。だからここの仕事でしくったと本隊は判断してるはずだ。
 よってここにはもう誰も来ねえってわけさ」
 
 まさかそんな高性能な魔道具を所持していたとは…… 
 
 足がつかないようにするためとはいえ、こいつ等が十年以上もこんな仕事を続けていられた理由はこれなのかもしれない。
 
 思った以上にやっかいな相手ね。振り出しかな…… いえ、前回と同じであれば八歳になれば本体がグラヴェロット領に現れるはず。
 
 そこまでお預けかしらね。
 
「そう、ならもういいわ。私は『赤狼の牙』は壊滅させるつもりなの。
 つまりあなたにどんな事情があったとしても生きてこの森から出られることはない」
 
「舐めるなよ、ガキィ」

 男は背中に隠し持っていたであろうナイフを投げつけてくる。
 
 私がそのナイフを避けると同時に男は壁に立てかけてあった剣を抜いて私に切りかかってくる。
 
「遅すぎる」

 私は剣を躱しつつ懐に飛び込み魔力を込めた拳を男の腹部に思いっきり打ち込んだ。
 
 腹部には穴が開き、反対側がくっきり見えていた。男は最後の言葉も残せないまま倒れた。
 
「ふぅ、終わったはいいけど結局の成果も得られなかったわね。赤服もここには当分来ないだろうし…… 
 前回はここでの誘拐の結果は私がいない以上、防げていないって考えると今回の八歳の時にちゃんと来てくれるのかしら?」
 
 私は一抹の不安を覚えながらも森を後にした。
 
 そして、私は戻った後で結局起きれなくてナナのお説教を沢山頂くことを今はまだ知らない。
どうも、ごきげんよう。無事に六歳になりました。大人の階段上る令嬢マルグリットです。
 
 『赤狼の牙』の別動隊を叩き潰してから半年が経過しました。あれからも訓練は続けていたため、日々成長できている実感はあります。
 
 かねてより考えていた六歳になったらドキッ!魔獣だらけのパラダイス『アリリアス大森林』で魔獣界デビューをして腕を磨こうと考えていたわけです。
 
 前回の人生では引きこもっていたから知識としてはあるけど行くのは初めてなのよね!
 
 場所はガルカダの南西で『魔力展開』で走っていけば十分に日帰りが可能な距離なのよね。
 
 というわけで既にアリリアス大森林まで来ているのだけど、初めて見た感想やっぱり大きいわね。すでに端から端が見えない程に遠いところにあるのね。
 
「それにしても気持ちいいわね。どうしても森に来ると森林浴気分になってダメね。裏の森と違って魔獣が生息しているのだから油断は禁物なのに」
 
 私が森に入って気が抜けそうになった直後の事に人の声が聞こえた。
 
「「ひええええええ、お助けえええええええええ」」

 え? 聞き間違えかしら? こんな素っ頓狂な助けを求めるセリフは書籍に登場する馬鹿丸出しの三枚目がヘマをした時くらいのものかと思ったけど現実に言う人いるんだ……。
 
 『ぎゃふん』並みのレア度を感じるわ。
 
 女性の声だったけど、どんな愉快な人がこんな叫びをあげたのかとても気になるわ。助けに行ってみましょう。
 
 私は声のする方向へ走り始めたが、向かう途中にも色々叫んでいた。
 
「私たちは美味しくないから~~~~~」

「豚に犯されるなんて嫌すぎるうううううう」

 複数の女性の声が聞き取れたわ。内容から敵が何なのか理解したけど、それだけ叫ぶ元気があるならその状況をなんとかしようと思わないのかしら?
 
 声がどんどん近づいてきている。
 
 ……見つけた。二人の女性が地べたに座り込んでいる。風貌的に一人は鎧と盾や剣を持っている前衛、もう一人は如何にも魔術師という恰好をしているから後衛かしら。
 
 相手はやはり『オーク』。Dランクモンスターではポピュラーなモンスターだ。
 
 オークと言えば学園時代の私とフィルミーヌ様の仲を取り持ってくれた某サイモン氏。