「わかりました。やはり間違いではないようです。『赤狼の旦那』とやらについてお話しいただけますか?」

「あぁ、仕事がなくて困っていた時に酒場で話しかけられたのがキッカケだったな」

 彼が語った内容によると、赤狼との出会いから仕事の斡旋について、仕事が完了した後の物資と金銭の交換などの話を聞いた。

「なるほど。仕事…… 今回で言うところのそこで眠っている少女の誘拐をしてガルカダの南東にある森の中の小屋まで連れて行ってあなたは代わりに金銭を受け取るという事ですね。ちなみに何故あの少女を狙ったのか聞いてもよろしくて?」

「あの娘じゃなきゃいけないって訳じゃねえさ。年頃の娘であれば誰でもよかったんだ。たまたま人気の少ねぇ場所にあの娘と弟らしきガキがいて、周りには誰もいなかったから仕事がしやすかっただけだ」

「そして捜索に当たった私に出くわしてしまったという事ですね」

「とんだ厄日だぜ、お前さんみたいな見た目が幼女で中身が魔獣とはな」

「あら、魔獣呼ばわりとは淑女に対する評価ではありませんわね。それで、仕事が上手くいった場合の取引はいつを予定していますの?」

「明日の夜だ。だから出来れば早め、つまりは今日の内に街を出たかった訳だ」

「わかりましたわ。では、あなたもそろそろお休みなってどうぞ。『睡眠魔法(スリープ)』」

 私は眠らせた誘拐犯の身体を部屋で見つけたロープで縛り、少女を担いで救出した。
 
 民家を出て、近くにいた衛兵に事情を説明して、誘拐犯がたまたまあの部屋で眠っていることにして確保してもらった。
 
 その後、詰所にいるであろうナナと少年の元に姉を送り届けた。
 
「おねえちゃあああん」

「マークも無事でよかったわ。助けて頂きまして本当にありがとうございました」

「いえ、姉弟共に無事でなによりです」

 よしよし、姉弟も無傷だったし全てがまーるく収まった…… と思いきや、ナナさんが怒りの表情でこちらを見ている。
 
「お嬢様? ナナとあれだけ約束して頂いたはずですよね? ぜーったい危険な真似だけはしないって」

「ナナ、聞いて頂戴。偶然にも誘拐犯の居場所を特定してしまったら、何故か偶然にも誘拐犯も女の子も二人とも寝ていたのよ。そして、意を決した私は女の子を連れ去り、衛兵に伝えたってわけ。何もおかしなことはないでしょう?」