彼女の身体から力が抜けて倒れて音がしないように一旦壁に寄りかからせて誘拐犯のスキを狙って一気に『魔力展開』で駆け抜ける。
 
 その予定だったのだが、スキを伺っていたところ、苛立っていた誘拐犯が口を開いて愚痴を呟きだした。
 
「クソッ、もう少し衛兵が減らねえと出るに出れねえ。時間がかかっちまったら『赤狼』の旦那にどやされちまうぜ」

 『赤狼』。たしかに誘拐犯はそう言った。単語を頭で理解するより先に一気に心臓の鼓動が高鳴ったのを感じた。
 
 そして私は気付いた時には、当初予定していた行動とは真逆の行動に出てしまっていた。

『魔力展開』

 戦闘準備を取った私は誘拐犯に気づかれる前に一気に近寄り、足を引っ掛けて体勢を崩した直後に首元を掴み、一気に床に叩きつけた。そして誘拐犯の両腕も私の両脚で抑えて動けないようにした。
 
「ガッ!」

「ごきげんよう。いくつかあなたにお聞きしたいことがあります。質問に答えて頂けるかしら?」