「あっ、ごめんなさいね」
私は謝りながら振り返るとそこにいたのは小さな少年だった。ナナと同じくらいの年頃だろうか。お世辞にも平民から見ても良い身なりとはいえない。生活苦の部類なのかもしれない。
「ごごごご、ごめんなさい」
私とぶつかった少年は今にも泣きそうな顔をしていた。明らかに貴族の様な恰好をしている私にぶつかったもんだから怯えているのかしら?
安心したまえ、少年。どうも、領民に優しい令嬢マルグリットです。
「私は大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫かい?」
「あ、あの…… もしかして貴族様ですか?お、お、お姉ちゃんを助けてください」
少年は私にしがみついて懇願してくる。これは、ただ事ではなさそうだ。
「どういうことかしら? 話を聞かせてもらえる?」
「あ、ありがとうございます。お姉ちゃんが……」
少年が話をしている最中に別の場所から大声が鳴り響く
「「「キャアアアアアアアアアアア」」」
なんなの? 次から次へと!
「ヘンリエッタ! 声のする方向に向かって。 トラブルがあったら解決してきなさい」
「し、しかし、私はマルグリット様の護衛でして……」
「聞きなさい、ヘンリエッタ。私たちが何の為に存在しているのか考えなさい。私たちは彼らから税を貰って生活しているわ。その代わりとして領民を守る事、領民の生活を安定させることが責務とされているの。故に領民の問題解決は全てにおいて最優先事項! これは命令よ、行きなさい!」
「ハッ! かしこまりました」
ヘンリエッタは天啓でも受けたかのような納得した表情をして、大急ぎで悲鳴のする方向へ向かっていった。
ククク、それっぽいことを言って、止めに『命令』と言えば大抵の騎士などイチコロよ。
やはり新人、やはり小童、この説得令嬢マルグリットの敵ではないわぁ~。
「お嬢様? その辺の悪人よりもよっぽど悪い顔していますけど何を企んでるんですか?」
しまった。ナナがまたジト目で私の事を疑ってる。違うの、ナナ。あんなド変態をナナの近くに置いておくなんて以て他ということなの。
小童風情が言葉巧みに私に騙されたのがとても心地よかったとかではないの。あなただけには信じてほしい、私のナナ。
「違うわよ、ナナ。もしかしたら、これから私たちも忙しくなりそうだから少し真面目にやらなきゃって思って真剣になっただけよ」
「むぅ、ナナの直感が訴えています。最近のお嬢様はナナが気づかない内に言葉巧みに誘導してるような気がしてます。あの高熱から目覚めた日からは特にビシビシ感じてますぅ」
くっ、さすがナナは手ごわい。このままではまずい。申し訳ないけど、話を変えるために少年を利用させてもらうわ
「ナナ、その前に少年の話の続きを聞くわよ」
「むっ、わかりましたですぅ。この件が片付いたらナナとの話の続きをしてもらいますからね」
「わ、わかったわよ。途中で話を遮ってごめんね、少年。お姉ちゃんが何だっけ?」
「は、はい! お姉ちゃんが知らない男の人に連れ去られちゃったんです。僕は止めようとしたんですが、男の人に殴られてしまって気を失っている最中にどこかに……」
「連れ去られた? ということは誘拐かしら。 君が覚えている範囲で構わないから、どの方向に向かったかわかるかしら?」
「はい! 僕とお姉ちゃんはこの路地の先をこっちに向かって歩いていたんですが、途中で男の人に腕を掴まれてしまって、男の人はこっちに向かう方向とは逆に向いていたから、多分この路地をさらに奥に行ったんだと思います」
そう言った少年が伸ばした腕は自分が出てきたであろう路地を指していた。真昼間でもと建物の陰に隠れているせいか陽の光が届かない為に通りは薄暗く、近道だとしても通りたいとは思わない雰囲気がある。
「わかったわ。ナナ、少年を連れて衛兵の所まで言って頂戴。今私にした同じ内容を衛兵に説明して捜索に必要な人手を連れてくるの、いい?」
「私ですか? お嬢様はどうされるおつもりですか?」
「私は少年の言っていた方向に向かって怪しい奴がいないか確認してくるわ」
「ダメですよ、そんなの危険すぎます! お嬢様も一緒に衛兵さんの所へ行きましょう」
「いえ、もしかしたら時間がないかもしれない。このお祭り騒ぎで人の流れはごった返しているわ。この機に乗じてガルカダを出てしまうかもしれない。」
「ですけど、本当に見つけちゃったらどうするんですか? お嬢様の力ではどうにもなりませんよ!」
「大丈夫、私にはココがあるわ。もし、見つけてもバレるようなヘマはしないわ」
私はそう言うと自分の人差し指をこめかみに二回当てる。
そう、ここぞとばかりに頭脳がありますよアピールをするのよ。
ナナは知っているはず。私の頭の良さをね!
「たしかにお嬢様はお体は弱いですけど、頭はいいですから…… むぅ、お嬢様、約束してください。無茶だけは絶対にしないと。約束してくれるまでナナはぜ~ったいに一歩もここを動きませんから!」
こうなったナナは本当に一歩も引かない。約束するまで衛兵の元へ行かないだろう。
そしてナナは知らない。今の私は身体が弱くない事を。魔法が使えることを。当時十八歳の私より強くなっていることを。
だからごめんね、ナナ。先に謝っておくわ。
何しろ、久々の実戦経験が積むことができるいい機会かもしれないから……
「わかったわ、無理はしない。約束するわ」
「わかりましたですぅ。では、あなたはナナについてきてください。衛兵さんに説明したいので」
「は、はい」
ナナは少年の手を掴んで衛兵のいる場所まで走っていった。
これからが私にとって本当のお祭りの始まりね。
私は謝りながら振り返るとそこにいたのは小さな少年だった。ナナと同じくらいの年頃だろうか。お世辞にも平民から見ても良い身なりとはいえない。生活苦の部類なのかもしれない。
「ごごごご、ごめんなさい」
私とぶつかった少年は今にも泣きそうな顔をしていた。明らかに貴族の様な恰好をしている私にぶつかったもんだから怯えているのかしら?
安心したまえ、少年。どうも、領民に優しい令嬢マルグリットです。
「私は大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫かい?」
「あ、あの…… もしかして貴族様ですか?お、お、お姉ちゃんを助けてください」
少年は私にしがみついて懇願してくる。これは、ただ事ではなさそうだ。
「どういうことかしら? 話を聞かせてもらえる?」
「あ、ありがとうございます。お姉ちゃんが……」
少年が話をしている最中に別の場所から大声が鳴り響く
「「「キャアアアアアアアアアアア」」」
なんなの? 次から次へと!
「ヘンリエッタ! 声のする方向に向かって。 トラブルがあったら解決してきなさい」
「し、しかし、私はマルグリット様の護衛でして……」
「聞きなさい、ヘンリエッタ。私たちが何の為に存在しているのか考えなさい。私たちは彼らから税を貰って生活しているわ。その代わりとして領民を守る事、領民の生活を安定させることが責務とされているの。故に領民の問題解決は全てにおいて最優先事項! これは命令よ、行きなさい!」
「ハッ! かしこまりました」
ヘンリエッタは天啓でも受けたかのような納得した表情をして、大急ぎで悲鳴のする方向へ向かっていった。
ククク、それっぽいことを言って、止めに『命令』と言えば大抵の騎士などイチコロよ。
やはり新人、やはり小童、この説得令嬢マルグリットの敵ではないわぁ~。
「お嬢様? その辺の悪人よりもよっぽど悪い顔していますけど何を企んでるんですか?」
しまった。ナナがまたジト目で私の事を疑ってる。違うの、ナナ。あんなド変態をナナの近くに置いておくなんて以て他ということなの。
小童風情が言葉巧みに私に騙されたのがとても心地よかったとかではないの。あなただけには信じてほしい、私のナナ。
「違うわよ、ナナ。もしかしたら、これから私たちも忙しくなりそうだから少し真面目にやらなきゃって思って真剣になっただけよ」
「むぅ、ナナの直感が訴えています。最近のお嬢様はナナが気づかない内に言葉巧みに誘導してるような気がしてます。あの高熱から目覚めた日からは特にビシビシ感じてますぅ」
くっ、さすがナナは手ごわい。このままではまずい。申し訳ないけど、話を変えるために少年を利用させてもらうわ
「ナナ、その前に少年の話の続きを聞くわよ」
「むっ、わかりましたですぅ。この件が片付いたらナナとの話の続きをしてもらいますからね」
「わ、わかったわよ。途中で話を遮ってごめんね、少年。お姉ちゃんが何だっけ?」
「は、はい! お姉ちゃんが知らない男の人に連れ去られちゃったんです。僕は止めようとしたんですが、男の人に殴られてしまって気を失っている最中にどこかに……」
「連れ去られた? ということは誘拐かしら。 君が覚えている範囲で構わないから、どの方向に向かったかわかるかしら?」
「はい! 僕とお姉ちゃんはこの路地の先をこっちに向かって歩いていたんですが、途中で男の人に腕を掴まれてしまって、男の人はこっちに向かう方向とは逆に向いていたから、多分この路地をさらに奥に行ったんだと思います」
そう言った少年が伸ばした腕は自分が出てきたであろう路地を指していた。真昼間でもと建物の陰に隠れているせいか陽の光が届かない為に通りは薄暗く、近道だとしても通りたいとは思わない雰囲気がある。
「わかったわ。ナナ、少年を連れて衛兵の所まで言って頂戴。今私にした同じ内容を衛兵に説明して捜索に必要な人手を連れてくるの、いい?」
「私ですか? お嬢様はどうされるおつもりですか?」
「私は少年の言っていた方向に向かって怪しい奴がいないか確認してくるわ」
「ダメですよ、そんなの危険すぎます! お嬢様も一緒に衛兵さんの所へ行きましょう」
「いえ、もしかしたら時間がないかもしれない。このお祭り騒ぎで人の流れはごった返しているわ。この機に乗じてガルカダを出てしまうかもしれない。」
「ですけど、本当に見つけちゃったらどうするんですか? お嬢様の力ではどうにもなりませんよ!」
「大丈夫、私にはココがあるわ。もし、見つけてもバレるようなヘマはしないわ」
私はそう言うと自分の人差し指をこめかみに二回当てる。
そう、ここぞとばかりに頭脳がありますよアピールをするのよ。
ナナは知っているはず。私の頭の良さをね!
「たしかにお嬢様はお体は弱いですけど、頭はいいですから…… むぅ、お嬢様、約束してください。無茶だけは絶対にしないと。約束してくれるまでナナはぜ~ったいに一歩もここを動きませんから!」
こうなったナナは本当に一歩も引かない。約束するまで衛兵の元へ行かないだろう。
そしてナナは知らない。今の私は身体が弱くない事を。魔法が使えることを。当時十八歳の私より強くなっていることを。
だからごめんね、ナナ。先に謝っておくわ。
何しろ、久々の実戦経験が積むことができるいい機会かもしれないから……
「わかったわ、無理はしない。約束するわ」
「わかりましたですぅ。では、あなたはナナについてきてください。衛兵さんに説明したいので」
「は、はい」
ナナは少年の手を掴んで衛兵のいる場所まで走っていった。
これからが私にとって本当のお祭りの始まりね。