あれ、また寝ちゃったんだ。
寝すぎたせいか身体が余計に重く感じる。頭もうまく働かない。私は上半身を起こしてため息をつく。
もう、いい加減現実に目を向けないと。
私があの場所から助けられたという事は少なくとも二人の遺体も一緒に運ばれた可能性があるからナナに確認しないと。
言わなきゃいけないと思いつつも躊躇してしまう。こんな情けない自分が本当に嫌になる。
そうこう悩んでるうちに部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼しまーす。そろそろ起きられるかと思って様子を見に参りましたぁ」
入ってきたのはナナだった。
「あ、ナナ。さっきはごめんね。情けないところ見せちゃって。私はあれからどれくらい寝ちゃったのかなあ?」
「何言ってるんですかぁ、昨日も言いましたけど、何時でも甘えて頂いて構いませんからねぇ。ちなみにお嬢様が寝てから丸一日経過しましたよぉ」
え?ただでさえ二日寝込んでいたというのにさらに一日寝込んでしまうとは…… 道理で身体も頭も重いわけだ。
私は決心してナナに確認することにした。
「えーっと…… ナナ、私が三日前に倒れていたと思われる場所から二人倒れていたはずなんだけど、その二人は回収してくれたの?」
ナナはキョトンとした顔でこちらを見ている。ん? 聞き方がまずかったかしら? とはいえ『死体』という単語はあまり使いたくないし。
「お嬢様が倒れられていた場所にはお嬢様しかおられませんでしたよ?」
そんな馬鹿な。ナナより先に回収されたってこと?それぞれの家が?タイミングが良すぎるでしょ?ダメだ、悩んでもわからない。もう率直に聞くしかない!
「ナナ、私が死にかけていたあの場所で二人の同級生の死体があったはずなんだけど、私とその二人以外誰かいなかった?」
他で考えると私が殴り殺した山賊くらいしか思いつかないけど、奴らだけが残されていたとした場合はそれぞれの家の人間が回収しにきたに違いないと思う。
ナナは眉間に皺を寄せて頭を捻っている。”このお嬢様は一体何を口走ってるんですかぁ?”とでも言いたげだ。
「え? そんなわけないですよぉ! お屋敷の敷地で死体だなんてあったら大問題ですよぉ! お、お嬢様? 何か変な夢でも見られたのでは?」
ん?ナナは今何と言った?『お屋敷の敷地』?
なんだろう? 昨日から思っていたが私とナナの話が嚙み合ってない気がする。一度頭から整理する必要があるな。
「えーっとね、ナナ。私は倒れる前に学園の卒業パーティーに参加していたの。
その時殿下から婚約者であるメデリック公爵家のご令嬢が婚約破棄をされる流れになったのね。
そして、そのご令嬢であるフィルミーヌ様と一緒に私とコンパネーズ伯爵家のイザベラ嬢の三人が国外追放を受けたんだけど。
隣国である魔導王国パラスゼクルに向かう途中の森の中で山賊たちに襲われて、私は瀕死の重症(?)を負い、二人のご令嬢は…… その…… こ、殺されてしまった……」
私は二人の話をする度にあの光景を思い出して泣きそうになるが、なんとか堪えてナナに一通りの話をしたところ……
ナナは茫然として私の顔を見つめている。それはそうだ、こんな重い話をされて誰が喜ぶというのか。
「えっと、その…… よくできたお話ですね? ミステリー作家でも目指されるんですかぁ?」
今の発言は流石にナナとは言え許せなかった。私が大切な友を二人失ったというのに創作? 言っていいことと悪いことの区別はつけるべきなのに!
「ナナ!言っていい事と悪いことの区別はつけなさい。私は身体をこんなズタズタに……」
私は創作でないことを身をもって教えようとズタズタになったはずの両腕を見せるが……
ズタズタどころか腕にも手にも傷一つついていなかった。おかしい、完全に拳は破壊されていたはずなのに。両腕も前に差し出して改めて確認するが両腕とも無傷だった。
いや、改めて確認した腕はよく見ると随分小さい…… というか幼い?
「あ、あのお嬢様? お気を悪くさせてしまったら申し訳ありません。でも、なんか、その、昨日からお嬢様と私の話が嚙み合ってない気がするんですけど……」
やっぱり……、お互いの話が嚙み合ってない事は理解した。次にお互いの認識を把握するためにナナに私の倒れる前の状況を確認する。
「ナナ、私がこの三日間寝込む前の状況を教えてくれない? あなたの知っている範囲でいいから」
「は、はい。お嬢様はいつも通り旦那様の書斎から本を取り出してきてお庭にある木の木陰で読書をされていたのですが、私が目を離したすきに高熱を出して倒れられてしまって、お部屋にお運びしました」
仮にその話が正しいとするなら……、今ここにいるわたしは?
私は自分の腕を見てナナの顔を見つめる。
あれ……? ナナってたしか私の二歳年上だったはず。今二十歳のはずだけど、ナナも私に負けじと年を重ねても少女体質だが少女というより幼いがしっくりくる。
自分の心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じる。今ここにいる自分こそが夢かもしれないと自分の心と問答する。
そして、決心をしてナナに告げる。
「ナナ、鏡を持ってきてくれる?」
「はい、すぐにお持ちしますぅ!」
おちつけー、おちつけ! わたし! ナナが部屋を離れている間、荒ぶる自分の心臓に手を当てて息を整える。これが全てがはっきりする。
「お持ちしましたぁ!お嬢様!」
よし、鏡を見るよ!
鏡に映った私は…… あまり変わっていなかった! じゃない、幼い! 完全に幼いよ! 心臓が痛い! 心臓が痛い!
「ナナ! 最後にもう一つだけ教えて!」
「はい、お嬢様!どんとこいですぅ!」
ナナは誇らしげに胸を叩くが、強くたたき過ぎたのかむせていた。何をやってるんだ、君は。
「今年の王国歴は?」
私の認識が正しければ今年の王国歴は1000年のはず!
「王国歴987年ですぅ!」
じゅ、じゅうさんねんまえ……?
「五歳やないかあああああああああああああああああい!」
「お、お嬢様!?」
寝すぎたせいか身体が余計に重く感じる。頭もうまく働かない。私は上半身を起こしてため息をつく。
もう、いい加減現実に目を向けないと。
私があの場所から助けられたという事は少なくとも二人の遺体も一緒に運ばれた可能性があるからナナに確認しないと。
言わなきゃいけないと思いつつも躊躇してしまう。こんな情けない自分が本当に嫌になる。
そうこう悩んでるうちに部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼しまーす。そろそろ起きられるかと思って様子を見に参りましたぁ」
入ってきたのはナナだった。
「あ、ナナ。さっきはごめんね。情けないところ見せちゃって。私はあれからどれくらい寝ちゃったのかなあ?」
「何言ってるんですかぁ、昨日も言いましたけど、何時でも甘えて頂いて構いませんからねぇ。ちなみにお嬢様が寝てから丸一日経過しましたよぉ」
え?ただでさえ二日寝込んでいたというのにさらに一日寝込んでしまうとは…… 道理で身体も頭も重いわけだ。
私は決心してナナに確認することにした。
「えーっと…… ナナ、私が三日前に倒れていたと思われる場所から二人倒れていたはずなんだけど、その二人は回収してくれたの?」
ナナはキョトンとした顔でこちらを見ている。ん? 聞き方がまずかったかしら? とはいえ『死体』という単語はあまり使いたくないし。
「お嬢様が倒れられていた場所にはお嬢様しかおられませんでしたよ?」
そんな馬鹿な。ナナより先に回収されたってこと?それぞれの家が?タイミングが良すぎるでしょ?ダメだ、悩んでもわからない。もう率直に聞くしかない!
「ナナ、私が死にかけていたあの場所で二人の同級生の死体があったはずなんだけど、私とその二人以外誰かいなかった?」
他で考えると私が殴り殺した山賊くらいしか思いつかないけど、奴らだけが残されていたとした場合はそれぞれの家の人間が回収しにきたに違いないと思う。
ナナは眉間に皺を寄せて頭を捻っている。”このお嬢様は一体何を口走ってるんですかぁ?”とでも言いたげだ。
「え? そんなわけないですよぉ! お屋敷の敷地で死体だなんてあったら大問題ですよぉ! お、お嬢様? 何か変な夢でも見られたのでは?」
ん?ナナは今何と言った?『お屋敷の敷地』?
なんだろう? 昨日から思っていたが私とナナの話が嚙み合ってない気がする。一度頭から整理する必要があるな。
「えーっとね、ナナ。私は倒れる前に学園の卒業パーティーに参加していたの。
その時殿下から婚約者であるメデリック公爵家のご令嬢が婚約破棄をされる流れになったのね。
そして、そのご令嬢であるフィルミーヌ様と一緒に私とコンパネーズ伯爵家のイザベラ嬢の三人が国外追放を受けたんだけど。
隣国である魔導王国パラスゼクルに向かう途中の森の中で山賊たちに襲われて、私は瀕死の重症(?)を負い、二人のご令嬢は…… その…… こ、殺されてしまった……」
私は二人の話をする度にあの光景を思い出して泣きそうになるが、なんとか堪えてナナに一通りの話をしたところ……
ナナは茫然として私の顔を見つめている。それはそうだ、こんな重い話をされて誰が喜ぶというのか。
「えっと、その…… よくできたお話ですね? ミステリー作家でも目指されるんですかぁ?」
今の発言は流石にナナとは言え許せなかった。私が大切な友を二人失ったというのに創作? 言っていいことと悪いことの区別はつけるべきなのに!
「ナナ!言っていい事と悪いことの区別はつけなさい。私は身体をこんなズタズタに……」
私は創作でないことを身をもって教えようとズタズタになったはずの両腕を見せるが……
ズタズタどころか腕にも手にも傷一つついていなかった。おかしい、完全に拳は破壊されていたはずなのに。両腕も前に差し出して改めて確認するが両腕とも無傷だった。
いや、改めて確認した腕はよく見ると随分小さい…… というか幼い?
「あ、あのお嬢様? お気を悪くさせてしまったら申し訳ありません。でも、なんか、その、昨日からお嬢様と私の話が嚙み合ってない気がするんですけど……」
やっぱり……、お互いの話が嚙み合ってない事は理解した。次にお互いの認識を把握するためにナナに私の倒れる前の状況を確認する。
「ナナ、私がこの三日間寝込む前の状況を教えてくれない? あなたの知っている範囲でいいから」
「は、はい。お嬢様はいつも通り旦那様の書斎から本を取り出してきてお庭にある木の木陰で読書をされていたのですが、私が目を離したすきに高熱を出して倒れられてしまって、お部屋にお運びしました」
仮にその話が正しいとするなら……、今ここにいるわたしは?
私は自分の腕を見てナナの顔を見つめる。
あれ……? ナナってたしか私の二歳年上だったはず。今二十歳のはずだけど、ナナも私に負けじと年を重ねても少女体質だが少女というより幼いがしっくりくる。
自分の心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じる。今ここにいる自分こそが夢かもしれないと自分の心と問答する。
そして、決心をしてナナに告げる。
「ナナ、鏡を持ってきてくれる?」
「はい、すぐにお持ちしますぅ!」
おちつけー、おちつけ! わたし! ナナが部屋を離れている間、荒ぶる自分の心臓に手を当てて息を整える。これが全てがはっきりする。
「お持ちしましたぁ!お嬢様!」
よし、鏡を見るよ!
鏡に映った私は…… あまり変わっていなかった! じゃない、幼い! 完全に幼いよ! 心臓が痛い! 心臓が痛い!
「ナナ! 最後にもう一つだけ教えて!」
「はい、お嬢様!どんとこいですぅ!」
ナナは誇らしげに胸を叩くが、強くたたき過ぎたのかむせていた。何をやってるんだ、君は。
「今年の王国歴は?」
私の認識が正しければ今年の王国歴は1000年のはず!
「王国歴987年ですぅ!」
じゅ、じゅうさんねんまえ……?
「五歳やないかあああああああああああああああああい!」
「お、お嬢様!?」