訳が分からなくなってしまった私は、答えるはずがないと分かっているにも関わらず盗賊に疑問をぶつけていた。

「どう言う事? 何で盗賊と近衛が一緒になって私たちを殺しに来たのよ! 」

「とあるお偉さん方がよ、お前らに生きていられると困るんだってよ」

 生きて? 追放じゃ足りないってこと? 今はっきりしてるのは王子だけだけど…… ちょっとまって! 今コイツ『お偉さん”方”』って言わなかった? 一人じゃない? わからない。今は情報を引っ張るために時間を稼ぐしかない。

「それって王子からの依頼ってことかしら? それとも他の誰かかしら?」

「さてな? まあ、一つだけ教えてやらんこともない。お前はメデリック公爵家のお嬢さんがターゲットでお前らはついでに殺されると思っているだろ?」

 何を言っているの? そうじゃないの? フィルミーヌ様であればいくらでも狙われる理由はある。誘拐して公爵家からの莫大な身代金、政治的にも娘を見捨てることのできない公爵閣下にもフィルミーヌ様が誘拐されたという事実だけで大きな影響を与えることができる。それに誘拐なんて未婚の令嬢にとっては大惨事もいいところだ。無事だったとしても傷物扱いはほぼ免れない。そういった意味では利用価値はいくらでもある。
 
 イザベラもまだわかる。お父上は次期法務局長、思いっきり国の中枢にいる人物。婚約者はまだいないにしろ伯爵家の中でも上位にいるはずだから、フィルミーヌ様ほどでないにしろ私とは比較にならないほどいくらでも利用価値はあるはず。
 
 でも…… 私にはない。何もない。婚約者もいないし、殺すどころか利用価値すら考えられない。所詮は多数いる子爵令嬢の一人。それにグラヴェロット領は王国でも外れに位置する。厄介な魔獣が多数出現する森があるから冒険者はそれなりに多い。そんなものに利用価値? 自分で言うのもなんだけど見いだせない。やっぱり私だけはおまけなんだろうか?
 
 赤服は嬉しそうに口を開く。
 
「ターゲットはお前ら三人だ」

 私はきっと茫然としていたんだと思う。何故なら意味が分からなかったから。私も含まれている? 最初から? 殺すほどの価値が私に?
 
「死ぬ前に言い残しておくことはあるか?」

 きっとこいつはもう何も喋らない。私はもう覚悟を決めて、最後の言葉を笑顔で強がるしかなかったのだ。