私は気にせずにその盗賊に向けて話しかける。
 
「フフッ、ミテヨ、キタナイフンスイミタイダネ」
 
「クソッ、このイカレ女、手に負えねえ。もっと一度にかかれ!」

「そんなこと言われてもよ、こんな化け物に近づけってのかよ!ただの貴族令嬢じゃなかったのかよ!」

 私の身体を押さえつけていた盗賊はもういない。身体が自由になったのだ。最初に近づいたやつから殴られるのがわかってる。だから盗賊どもは躊躇する。

 全身が空いた私は顔を真っ青にして脂汗を流しながら化け物でも見ているかのような目で震えて棒立ちの様になっている盗賊どもを片っ端から殴り始めた。
 
 もう何十人倒したのかすらわからない。理解しようとも思わない。ただ、やり場のない怒りと悲しみ、喪失感に絶望、憎悪が入り混じった自分でも処理しきれない感情をとにかく盗賊たちにぶつけるしかなかった。
 
 既に私の拳も腕も取り返しがつかない程にぐちゃぐちゃになっていることにも気づかないまま……。
 
「しかたねぇな」
 
 赤服はそう呟きながら胸元から笛を取り出し、それを吹くと木の陰から増援が現れたのだが、その連中を見て我に返り、動きが止まってしまった。
 
 それもそのはず…… 木の陰から現れたのは『近衛騎士』だったからだ。
 
「今だっ!」
 
 ありえない程の組み合わせに驚いた私は動きを止めた瞬間を狙われて再び押さえつけられしまった。
 
「あぐッ!」

「ちゃんとソイツを押さえつけておけ」

 地べたに押さえつけられた私は、自分の顔を上げるとそこにいた近衛騎士の顔を見て気が付いた。この人、見たことがある……。
 
「あなた、王子直属の近衛騎士……」

 しかし近衛騎士は一言も発さない。代わりに私を見つめるその瞳からはこれでもかというほどの殺意が感じ取れた。
 
 同じだ…… あのパーティー会場で私たちを見ていた連中と…… いったい何が起きたというの? 同級生たちに、近衛騎士たちに。
 
 共通点は『王子』だ。彼に一体何があったというの? 私たちをどうしても殺さなければならない程の何かがあったのは間違いない。
 
 王子と知り合ってからの三年間の事を必死に思い出そうとしても、動機となるような内容はなかったはず。