「やだ、やだ、お父さん…… お母さん…… 嫌だよぉ……」

 私はその場で泣き崩れてしまい、暫くお父さんとお母さんの死体に抱き着き動くことが出来ませんでした。
 
 散々泣いた後、不思議と冷静になって現状について考えだしました。
  
「どうして……? いくら濡れ衣を着せたからって何も自領の村人を皆殺しにするなんて……」
 
 やっぱり変だと思ったんです。自領の村を潰したら税収が減ってしまう。
 
 私を手に入れた事、翌年分の税収の上乗せは約束していたはず…… 領主として何の問題もなかったはず。
 
 それを放棄してでもこの村を壊滅させなければならない理由があった?

 そんなことを考えながら村の皆を埋めてあげないとと思い、動かなくなったお父さんを見つめていたら手に何かを持っている様な姿勢になっていることに気付いたんです。
 
 正確には握りしめていたんです。お母さんを庇いながら不自然に隠す様に手を内側に入れていたから違和感がありました。
 
 手のひらの中には一枚の紙がありました。兵士が来たことに気付いて急いで殴り書きしたであろう紙には私の名前が書かれていたことから私宛だということがわかりました。
 
 その内容は、今回の件を隣領の領主様に協力を求めに行こうとした所でそれが領主にバレて兵を差し向けられてしまったこと。
 
 私を売るような事になった事に対する謝罪と後悔が書き記されていました。
 
 何故こんなにあっさりとバレてしまったのか…… それは恐らく村の中に領主の放ったスパイがいたから。
 
 ずっとお父さんの動向を探っていたに違いない。きっとスパイは死体で上がらなかった人間に限られると思うと考えた私は村の皆を埋葬すると同時に見つからなかったのは誰か確認しました。
 
 時間が掛かりましたが、ようやく判明した死体として上がらなかったのは三人……
 
 よりによって…… 『幼馴染とその家族』だったなんて……。
 
 元々は幼馴染――タチアナの両親が領主の手先だったと思いますが、恐らくタチアナも両親からスパイとして仕込まれていたのでしょう。
 
 私達をこんな目に会わせておいて自分たちはのうのうと生きているだなんて許さない…… 絶対に!
 
 埋葬が終わり、無事な食料を集めて私は村を後にしました。