見張りの目を盗んで屋敷を抜け出してから故郷に到着するまで一週間ほどかかりました。
 
 追手が来ることを考慮して気付かれにくい道を進んでいたせいで大分遠回りしてしまいました。
 
 途中に立ち寄った村で村人が私の村について語った内容について耳に挟んだ所、やっぱり別館で聞いた話は本当だったんだ……。
 
 急がないと……。
 
 寝る間も惜しんで出来うる限り、兵士たちに見つからない様に移動してようやく村が見えてくる辺りまで来た所、嫌な予感は的中してしまいました。
 
 焦げ臭い匂いがしたんです。私が抜けだして経過した日数から考えても到着したのは数日前、それでこれだけの匂いがするということは……。
 
 私が見た村の光景は最早人が嘗て住んでいたであろう成れの果てでした。
 
 燃やせるものは全て燃やし、壊せるものは全て壊したであろう村の残骸。
 
 その周辺には人間の死体、死体、死体。
 
 毎朝挨拶してくれたおじさん、いつも旦那の愚痴を言っていたおばさん、私のスカートを毎日の様に捲ってくる悪ガキ、それを咎める同年代の女の子…… みんな、みんなが物言わぬただの肉塊になっていたんです。
 
 何故? 何故? 何故? 何故? 何故?
 
 私の身柄と引き換えに村を助けてくれる約束じゃなかったの? 自分の見ている光景が本当は悪夢なんじゃないかと思える程に絶望的な光景。
 
 老人も大人も子供も容赦なく刃を突き立てられた惨劇。子供達は一か所に集まってしゃがんで頭を伏せた姿で槍が突き立てられている。
 
 この世に地獄があるならば私が見ているこの光景こそがそうなのだろう。
 
 気が狂いそうになった私に一欠片でも理性が残っていたのは家族の状況を目の当たりにしていなかったからです。
 
 絶望した状況でしかない。それでも――家族の安否をこの目で見るまでは信じない、いや信じたくないだけ。
 
 私は実家である村長邸まで走りました。案の定、実家も崩壊していましたが周辺にお父さんとお母さんの死体はありませんでした。
 
 このまま見つからなければいい、どこか別の場所に逃げていてくれればいいと思ってと思いました。
 
 崩壊した実家の瓦礫をどかしていたらそんな希望は一瞬で砕け散る事になりました。
 
 お母さんを庇う様にして絶命していたお父さんの姿を見つけてしまったから。