『赤狼の牙』……聞いたことがある。十年程前にもグラヴェロット領にも現れたという当時は領内を散々荒らし回っていてお父様も頭を抱えており、累計すると途轍もない被害が出たって聞いた。グラヴェロット領からしたら最低だが最凶の集団だ。
 
 しばらくしてからめっきり聞かなくなったからとっくに討伐されたのかと思ってたけど、他の領を荒らしまわっていたってこと? よりによってこんな奴らを出くわすなんて最悪だ!
 
 赤服は私の腕を捩り上げて地べたに抑えつけた。
 
「ウグッ!!」
 
 なんて力なの、全く解けない。
 
「手前ら、コイツを抑えつけておけ。両腕両足をそれぞれ一人ずつ抑えつけろ。女だからと言って甘く見るな。」
 
「「「「ウッス!」」」」
 
「俺は今のうちに馬車の中の奴を処分してくる」

 赤服の発言で私の心臓が一気に跳ね上がった。

「ちょっ、ダメ!クッ!離せ!離せ!ハナセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」











 
「ドアから離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」











 赤服は私の言葉に耳を貸すどころかこちらを振り向き舌なめずりしながらドアを思いっきり開けた。










 
「オマエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ、フィッ!フィルミーヌ様ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」









 
 馬車が上下に揺れている。












 
 馬車の中から声がかすかに聞こえる









 
「おい、暴れるんじゃねえ!」









 
「イヤアッ、マルグリット!イザベラ!たすけっ」










 その言葉を最後に馬車の揺れが収まった……
 
 
 










 赤服が馬車から出てきて私の目に飛び込んできたのは真っ赤に染まった斧……赤服は嬉しそうにフィルミーヌ様の血で染まった斧を私に見せつける。