「ではこうしよう。今年の不足分は来年に上乗せしてもらう形で納税してもらうが、虚偽申告はイカンよなあ? 本来であれば極刑として村長一家の首を貰うところだが、優しい私は君達に慈悲を与える事とするよ」

 何か条件を付けるという事? 虚偽申告扱いされてショックのあまり俯いていた私は領主様から向けられていた視線に気付いていなかったのです。

「村長の娘を私が貰い受ける事が条件だ。妾になれば虚偽申告についてはお咎めなしとしてやろう。ンン? 悪い条件ではあるまい」
 
 もう理解が追い付かない。この人は一体何を言ってるのだろうか?
 
 私が領主様の妾? 私の身柄が狙いだったとでも? 意味がわからない。私はただのどこの村にでもいる娘でしかないというのに……。
 
 そう思って領主様に視線をやると、とても言葉では言い表す事の出来ない程に背中に怖気が走る表情を見てしまった。
 
 こんな人の妾にされたら私は一体どうなってしまうのか……。 そう思っていた時にお父さんの言葉を聞いて我に帰ったんです。
 
「お、お待ちください。娘だけは…… 娘だけは何卒勘弁して頂けないでしょうか。他の事であれば何でも致しますから」

「ハァ…… 言ったよな? 本来であれば重罪で村長一家の首を貰うはずだったとな。だが、慈悲深い私はお前の娘の身柄一つで済まそうとしているのだ。この有難みが何故理解できない。所詮は学の無い人の皮を被った家畜という事か」
 
 お父さん…… 身体を震わせている。侮辱に耐えているのか、代案を考えているのか…… 仮に代案があったとしても領主様はあの手この手で私を妾にしようとするでしょう。となれば、私にはもう選択肢は残されていない。それにこれ以上時間をかければその分村のみんなに嫌がらせをされるかもしれない。迷惑をかける前に決断するしかないと考えました。
 
「お父さん、私行きます。領主様の妾になります」

「なっ! 待ってくれ、ペトラ。もう少し何か……」
 
「ほう、娘は随分と聞き分けがいいようだ。」

 領主様はまるで獲物を見る獣の様な視線で私を捉えていました。
 
 私はお父さんが、みんなが心配しない様に虚勢を張る事しか出来ませんでした。