ペトラも付いて来たが、他人から見たらただの服だから特に疑う事もなく受け渡しは完了してメリッサは宿に戻っていった。
 
 その後、クララの部屋で看病を続けていた私にペトラから部屋の準備が整ったと言われたので「寝るときにお部屋を借りますね。ありがとう」と返したらペトラは部屋を後にした。

「クララ…… あなたは私が守ります。もう少しだけ待っててね」

 クララの顔をこんな間近でじっくり見るのは初めてかもしれない。私と同じ黒髪だけどロングヘアーでさらっさら。
 
 しょっちゅうビクビクしてて気が小さいのと暗い印象があるせいか気付きにくいけど普通に美少女なんだよね。
 
 あの王子がクララを添えるのも分からんでもないけど、王妃は見た目だけで選んじゃダメだよね。
 
 ただ、今回のクララはもしかしたら大化けするかもしれないから自信がついたらどうなるか分からない。
 
 自信満々の如何にもなご令嬢になって私の前に立ちはだかるのか…… できればそんな事はしたくないなあ、ここまで仲良くなっちゃったんだもん。
 
 クララの頭を撫でながらそんなことを思っていたら大分夜も更けて来た。
 
 私もそろそろ準備しようかなと考えながら隣の部屋に移動する。
 
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 夜中になって屋敷全体も静まり返っている。
 
 だからこそ、この部屋に向かって歩いてくる足音は部屋の外からだとしても分かりやすかった。
 
 足音は私のいる部屋の前で止まり、ゆっくりとカチャリと小さな音を立ててドアが開かれてく。
 
 部屋は暗くなっており気付きにくいが、窓から漏れる月の光に微妙に照らされて入って来た人物の手に持っている金属がキラリと光っている。
 
 その金属は刃物。ナイフよりは少し大きめの包丁の様なサイズの刃物…… そんなもので刺されてしまえば七歳児ではどうにかするまえに即死してしまうだろう。
 
 そしてその刃物はゆっくりと振り上げられ――無情にもベッドの膨らみ目掛けて振り下ろされる。
 
「あなたがいけないんですよ。クララお嬢様とどんどん親密になるから…… あの人を支えるのは私一人でいいんです。今までも…… そしてこれからもね」
 
 ドスッ……ドスッドスッと何度も何度も刃物を振り上げては降ろすを繰り返しているが、何度か目の時に違和感に気付いた様だった。