今いのちおいてけって言った? 荷物はいらない? パーティー会場からそのままやって来たから荷物はたしかにほぼないんだけど。

 何かの腹いせで通り魔しまくってるとか? 今考えても埒があかない。盗賊がなんであまり人の通らないここにいるとか考えている暇はない!どうにかして突破しないと! 
 
 最初に口を開いたコイツが盗賊のボスなんだろうか。他の連中は黒のシャツを着てるのに、一人だけ赤色で服装違うし、それに…… コイツ、間違いなく強い。ヘラヘラして、後ろに下がって部下に全部任せる気なんだ。その余裕のツラ凹ます。絶対にだ!

 それにしても数が多すぎる。なんとか進行方向の敵だけでも蹴散らして馬車を無理やりにでも進めるしかない!
 
「イザベラ! 御者台に乗って! 私が前方にいる邪魔な連中を蹴散らすから、思いっきり駆け抜けて!」

「!!!」

 私の言葉に反応したイザベラはすぐさま御者台に乗り移る。
 
 馬車のドアに近づく敵に気を付けながら馬車の前方の連中を倒さないと。
 
『魔力展開』

 私は肉体の限界まで魔力を張り巡らせて前方にいる敵に殴りかかる……
 
 
 
 が
 
 
 
 突然横からターゲットの盗賊を庇う様に腕が伸びてきて私の拳は止められた。
 
 コイツ、さっき後ろに下がったはずの赤服!いつの間に私の場所に?
 
「いってえな。なるほど、コイツは部下どもじゃ手こずりそうだわな。」

 正直に言って”盗賊程度であれば私の拳を止められるわけがない”と思っていた。
 
「どうしたよ? 目を見開いちゃってよ。まさかとは思うが、自分の拳は”盗賊程度であれば止められるわけがない”って思っちゃったか?」

 赤服は”正解だろ?”と言わんばかりに嬉しそうに頭上から私の表情を眺めてくる。
 
「それにお前、人間コロしたことねえだろ。その点、俺らは違えんだよ。金の為なら何でもやる。コロシもせずにこの場を切り抜けようだなんて甘すぎだろ」
 
 この状況で正確に図星を突かれた私は反論が何もできなくて睨みつけることしかできなかった。

「身体強化くれぇ、俺らにだって出来るんだよ! 十年以上、この道で食ってんだぜ? 数年鍛えた程度のお嬢ちゃんにやられるほど温くねえんだ、コッチはよ!! 聞いたことねえか?『赤狼の牙』って名前をよ?」