ナナは「ハッ」とした表情で「ここまで来たのに除け者は嫌ですぅ」と言うのでメリッサに無言で頷くとメリッサは観念したかの様に口を開きだした。
 
「わかりました。クララ様の家庭教師についてですが――惨殺死体で発見されていたとの事です」

 空気が一気に穏やかでなくなってしまった。ナナは口を手で押さえて動揺を隠そうとしているが隠せていない。
 
 うーん、隠すべきだったかと後悔しそうになるが、ナナには隠し事をしなくないという思いがせめぎ合っている。
 
 とは言え、無言のまま流れる空気の方が辛いと思ったので話を進める事にした。
 
「惨殺死体とは穏やかじゃないわね…… 死因はなんだったか解る?」

「現場を確認したわけではないのですが、どうやら魔獣に襲われた可能性が高い様です」

 家庭教師になるくらいだからそれなりの魔法の使い手ではあるはず…… にも拘らず魔獣に殺されるなんてどんな高ランク魔獣なのかしら?
 
「どんな魔獣に殺されたかわかるかしら?」
 
「魔獣の種類は不明ですが、鋭利な爪で殺された様でした。かなり魔獣の恨みを買っていたのか不明ですが、かなりズタズタされていたようでして、パッと見た感じは誰が殺されたか分からない程だったそうです」

「恨みを買うって…… 魔獣って感情を持つ生物だったかしら? でもなんでそう思ったのかしら?」

「殺害現場は自宅だったそうなのですが、本人をピンポイントで狙い撃ちしたそうですよ」

「ん? 恨みを買ってるんだったら普通本人がピンポイントでなにも不思議ではないと思うのだけれど何か違うのかしら?」

「先程お嬢様も仰いましたけど、魔獣は本能で生きる生物です。仮に対象をピンポイントで狙ったとしても、入口を無理矢理壊して中に入って殺して滅茶苦茶にするとなれば話は分かるんですけども……」

 何かしらこの違和感――というか既視感かしら? なんだっけ…… 前に同じような話を聞いた気がする。
 
「メリッサが言い淀むくらい程に信じられない出来事があったのかもしれないけど、まずは一通り話してもらえるかしら?」

「はい…… 惨殺された本人以外部屋の内装、入口含めて傷一つなかったそうです…… それと被害者が死んだ場所を考えるとまるで犯人を招き入れていたのではないかとの事でした」