悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

 そう、その認識に誤りはない。私が十八歳で死んで五歳児として蘇った際に当時使えなかったはずの魔力が使える事が出来たのは『魔力の使い方を魂が覚えていたから』に他ならない。
 
「私も同じ認識よ。魂と身体の境界である門を開いて魔力を魂から身体に送り出す。そしてその魂とは人間の臓器で言うところのココよ」

 私はそう言いながらクララの心臓に当たる部分に『トントン』と指を突き立てる。私は『魔力視』(マジックスキャン)が使えないからクララの潜在魔力量を視る事が出来ない。その代わりクララが魂から魔力を抽出する心臓に注目すること、実際に魔力が流れている箇所に手を添えればどのくらいの魔力が流れているのかは分かる。
 
「クララさん、この状態のまま魔力を身体に通して貰えるかしら?」

 クララは力んでいるのか顔を赤くしながら魔力の抽出を始めた。魔力抽出とは力むものではないのだけれど。
 
 そして分かった。クララの魔力制御訓練は途中で止まっていた事もあるだろうけど、門が狭いせいか魔力抽出に時間が掛かっている。簡単に言えばまだまだド素人であること。
 
 身体全体に行き渡らせるのに数分経っても終わっていない。
 
 仮に攻撃魔法を打つとして、最短距離である心臓から発射孔である手に届くまでも十数秒くらいは掛かってしまいそうだ。
 
 その状態で魔法を発射しても不発ないしは人体に影響がない程度の魔法しか出せないと思う。
 
 火炎魔法であれば指先に軽く火を一瞬出す程度、風魔法であればそよ風を起こす程度だと思う。
 
 再認識したけど、やっぱりクララ本人の力だけで魔力暴走を引き起こす事は出来ない。
 
 魔力暴走を起こすには身体が許容する容量を遥かにオーバーするほどの魔力抽出をしないとそもそも引き起こす事が出来ない。
 
 仮に第三者からの外的接触があったとして門をこじ開けてしまえば、魔力制御を碌に行う事の出来ないクララが魔力を使う前に暴走まで持っていくことは出来るとは思うけどもそんなことがあったら本人も気づくわよね。
 
 聞くしかないか……。
 
「ごめんなさい、クララさん。嫌な事を思い出させるかもしれないけど、暴走事故が起こった現場に誰が周りに居たか覚えてる?」

「え、えっと…… 当時の家庭教師の先生とお母さまくらいだったかと思います」
 
 二人だけ? そんな馬鹿な…… だってその二人は魔力暴走の被害者なのよ。
 
 うーん、分からなくなってきた。あくまで可能性の話として被害者になりさえすれば容疑者から外れる事を計算に入れているんだとしたら二人共容疑者になってしまうのよね。
 
 ダメだ、まだ情報が少なすぎる。せめて二人の当日の動きを知る事が出来ればなあ。
 
 クララのお母さまはともかく容疑者として可能性が高そうな家庭教師の先生の居場所なんてわかるかしら?
 
「ちなみに当時の家庭教師の先生は今どこにいるかご存じだったりします?」

「いえ、あの直後にすぐ辞められしまわれて今はどこにいるかまでは聞いておりません」

 クララの表情が急に曇りだした。しまった、私の馬鹿…… もうちょい聞き方を考えればよかった。
 
 にしても先生の行方はわからないかあ…… せめてメリッサが居てくれれば調査をお願い出来るからナナ達に夕刻に迎えに来てもらってから、実家に戻ってきているようであればメリッサ宛に手紙を出して協力してもらおうかしら。
 
 おっと、この話はまた後にするとしてクララの制御訓練も並行してしっかり行わないとね。
 
「貴方は魔力抽出の練習が圧倒的に足りていないわね。門を広げるには常に魔力を使って少しずつ広げる事をお勧めするわ」

「常にですか……? それはお部屋にいる時でも魔力を使った方がいいという事でしょうか」

「端的に言うとそうなるわね。私がいない間でも魔力を使う訓練をした方がいいわ。方法は教えるから寝る時以外は常に使い続ける事よ。魔力の使い方を身体に覚え込ませるのが一番なのよ」
 
「が、がんばります!」
 
 そして私とクララの魔力制御訓練初日は夕刻まで続いた。ナナ達が迎えに来てくれて私はコンテスティ邸を後にする事にした。
 
 クララは悲しがっていたが、まだ当分の間は来るのだからと伝えたら一気に嬉しそうにしていた。
 
 私は帰りの馬車の中で考えていた。何か違和感があると……。メリッサに調査してもらえればそれも何かわかるかしら。
 
「ナナ、実家に手紙を出したいのだけれど用紙はあったりするかしら?」
 
「はい、持ってきてますぅ。何か依頼することでもありましたか?」
 
「メリッサに調査してほしい事があってお願いをしようと思ってるの」

 そんなことを言ったらナナがムスッとしている。
 
「ムムッ、最近のお嬢様はメリッサさんの事を口にする機会が増えていませんか? ナナじゃダメなんでしょうか?」

 これは…… メリッサに対する嫉妬かな? 可愛い奴め、後で沢山可愛がって上げないとね。
 
「当時のクララさんの状況を確認するためにクララさんのお母さまに確認しないといけない事があるのよ。この中で接触しているのはメリッサだけでしょう? 彼女が一番の適任者って事よ」

「そう言う事であれば仕方ないですぅ」

「今日中に手紙を書くから、明日コンテスティ邸に行ってる間に手紙を出しておいて貰えるかしら?」

「かしこまりましたぁ」

 そんな訳で宿に戻ってから実家に戻っているであろうメリッサ宛に家庭教師の先生の居場所の調査と当日のクララのお母さまの行動について確認してもらうように依頼した手紙を書いた。
 
 どんだけここに居る事になるんだろうか……。
実家に手紙を出してから一カ月が経過しようとしている。

 そして、私はその間もクララの家庭教師を継続している。
 
 この一カ月の成果を見る限りクララの才能は相当なもので、このまましっかり訓練を続けていけば間違いなくイザベラを上回るどころか国を代表する程の攻撃魔法の使い手になり得る。
 
 はあ…… 敵に回るであろう子の才能開花を手伝うって自ら難易度を上げちゃってどうすんのよ私は~。
 
 クララの事で頭を悩ませつつ、未だに回答が来ないメリッサの件についても考えていた。
 
 メリッサの事だからそんなに時間を掛けずに調査結果が出てくるとばかり思っていたけど、思ったより難航しているのだろうか。
 
 今日は家庭教師はお休みの日なのでのんびり朝食を取り終わり、お茶を飲みながら時間を潰していたところでナナが急ぐ様に部屋に入って来た。

「お嬢様、メリッサさん――」

 その言葉に反応して『ガタッ!』と椅子の音も気にせずに立ち上がった。
 
「ご本人が来ました」

「ええええっ、そこは返信が来ましたじゃないの?」

 と驚いたのと同時にナナの手引きによりメリッサ本人が入って来た。

「いいえ、折角の機会なので奥様よりご許可を頂き、このメリッサ参上仕りましてございます」

 何が折角なのか全くわからないけど、お母さまからの許可を貰ってるんだったら良しとしましょう。
 
「ご苦労様です、メリッサ。来て貰って早々で悪いのだけれど、お願いしていた調査結果について報告して貰えるかしら?」

 メリッサは「畏まりました」と言いつつ、ナナに視線を追いやる。これは…… ナナには席を外してほしいという事だろうか?
 
「メリッサ、構わないわ。ナナも今回の件については理解してるからそのまま話をして頂戴」

 ナナは突然自分の事を言われたので「えっ?えっ?」と慌てふためいている。

 ヘンリエッタはナナだけに聞かせない様に仕向けているメリッサに対して不満げな目付きで見ているが、メリッサはその視線に気付いたのかヘンリエッタに耳打ちをするとしかめっ面で「う、うーん」と悩みだしている。
 
 恐らくナナの耳には入れたくない様な情報もあるのだろうけど、ここまで一緒に来たのに流石に部外者扱いは可哀想でしょと思ったので聞かせる事にした。
 
「ナナ、あなたには聞かせにくい内容かもしれないけど聞いてみる?」

 ナナは「ハッ」とした表情で「ここまで来たのに除け者は嫌ですぅ」と言うのでメリッサに無言で頷くとメリッサは観念したかの様に口を開きだした。
 
「わかりました。クララ様の家庭教師についてですが――惨殺死体で発見されていたとの事です」

 空気が一気に穏やかでなくなってしまった。ナナは口を手で押さえて動揺を隠そうとしているが隠せていない。
 
 うーん、隠すべきだったかと後悔しそうになるが、ナナには隠し事をしなくないという思いがせめぎ合っている。
 
 とは言え、無言のまま流れる空気の方が辛いと思ったので話を進める事にした。
 
「惨殺死体とは穏やかじゃないわね…… 死因はなんだったか解る?」

「現場を確認したわけではないのですが、どうやら魔獣に襲われた可能性が高い様です」

 家庭教師になるくらいだからそれなりの魔法の使い手ではあるはず…… にも拘らず魔獣に殺されるなんてどんな高ランク魔獣なのかしら?
 
「どんな魔獣に殺されたかわかるかしら?」
 
「魔獣の種類は不明ですが、鋭利な爪で殺された様でした。かなり魔獣の恨みを買っていたのか不明ですが、かなりズタズタされていたようでして、パッと見た感じは誰が殺されたか分からない程だったそうです」

「恨みを買うって…… 魔獣って感情を持つ生物だったかしら? でもなんでそう思ったのかしら?」

「殺害現場は自宅だったそうなのですが、本人をピンポイントで狙い撃ちしたそうですよ」

「ん? 恨みを買ってるんだったら普通本人がピンポイントでなにも不思議ではないと思うのだけれど何か違うのかしら?」

「先程お嬢様も仰いましたけど、魔獣は本能で生きる生物です。仮に対象をピンポイントで狙ったとしても、入口を無理矢理壊して中に入って殺して滅茶苦茶にするとなれば話は分かるんですけども……」

 何かしらこの違和感――というか既視感かしら? なんだっけ…… 前に同じような話を聞いた気がする。
 
「メリッサが言い淀むくらい程に信じられない出来事があったのかもしれないけど、まずは一通り話してもらえるかしら?」

「はい…… 惨殺された本人以外部屋の内装、入口含めて傷一つなかったそうです…… それと被害者が死んだ場所を考えるとまるで犯人を招き入れていたのではないかとの事でした」

 それを聞いていたナナが何かを「ハッ!」と思い出したかの様に割って入って来た。
 
「横からすみません。今のメリッサさんの話を聞いて思い出したんですけど、これって前にお嬢様とお話ししたゲンズブール辺境伯が殺された件の話に似てませんか?」

 私もそれを聞いてようやく既視感の正体が分かった。魔獣の様な手口でありながら行動原理が人間のそれだと……
 
「そうね、ナナから聞いてようやく合点がいったわ。もしかしたら犯人は同一個体の可能性があるわね。もしくは同種の魔獣か…… でも聞いた事ないのよね…… 図鑑ですら見た事ないわ、そんな類の魔獣」

「もしかしたら人間の仕業かもしれませんよ?」

「それであれば納得は行くんだけど、殺害方法が爪による惨殺なんでしょ? 人間がそんな爪持ってるかしら?」

「魔獣の爪に見せかけた武器を使って人間が切り裂いたとかでしょうか?」

「いいえ、私もそれは最初に考えたのだけれども武器・防具販売店で売ってるような爪は作りが均一なのだけれど殺害現場では不規則な爪痕、傷口だったからこそ人間の仕業ではなく魔獣と判断されたみたいなの」

 ハッ、いけない。今回はあくまでクララの魔力暴走は誰が引き起こしたか容疑者を探すための調査だったはず。
 
 その中で家庭教師が犯人なんじゃないか説を考えていたけど、話が家庭教師は誰に殺されたのかという流れになってしまっている。
 
 ついついミステリーっぽくなってしまったから面白くなって進めてしまったけど、関係ない流れになってしまったから一旦流れを断ち切らないと。
 
「ごめん、ちょっと待って。今回の調査依頼はクララの魔力暴走犯人を探すための調査であって家庭教師を殺した犯人は誰かと言う話ではないの。最有力候補の家庭教師が死んでしまったという事は真相は闇の中って事かしら?」

「いえ、実はそうとも限らないかもしれないんです。周辺の聞き込みしたところ――」

 そういう事か…… クララの話を聞いた時の違和感の正体はこれだったのか……

 というか、周辺の聞き込みってメリッサはそこまで行ってたのね。道理で時間掛ったわけだ。
 
「もう一つ教えて欲しいのだけど、クララのお母さまはシロって事でいいのかしら?」

「はい、それは間違いありません。それとお嬢様から依頼された『念の為調査してほしい』件についてですが――」

 ――繋がった…… 二つの事件の共通の人物。後は本人に直接聞くしかないわね。どのタイミングで聞くかは考えないとね。
 
「報告ありがとう。一旦休憩にしましょうか。ナナ、追加でお茶をお願いできるかしら」
 
「かしこまりましたぁ」

 ナナが宿の食堂にお茶を貰いに行ってる最中にメリッサに気になる事が出来たから聞いてみる事にした。
 
「この話をする際にナナの事を気にしてたみたいだけれど、そんなに貴方達って仲が良かったのかしら?」

「お嬢様はあまりご存じないかもしれませんが、使用人たちの仲って結構いいんですよ。特にナナは使用人たちの中でもみんなの妹的ポジションで特に可愛がられていますよ」

 へー、全然知らなかった。けど、よくよく考えてみたら知らないのも無理はない。
 
 前回の人生ではほとんど人に関わらない様にしてきたし、今回は自分が強くなるために外ばっかり出てたから家の中までちゃんと見てなかったと思う。
 
 ナナやメリッサが周りからどう思われてるのかとか考えた事もなかったわね。もう少し家の中も含めてちゃんと見てみようかしら……。
 
「ちなみに私は使用人たちの中ではどう思われてるのかしら?」

 メリッサはあまり顔に出すタイプではない…… しかし、明らかに動揺したであろう眼がキョロっと動いたのを見たぞ。
 
「怒らないから言ってごらんなさい」
 
「本当に怒らないでくださいね…… たまにお嬢様が殺気立って服をボロボロにして戻ってくるのを見かけた使用人がお嬢様を『野犬』みたいだと言ってました……」
 
 うわあ…… 自分ではササっと入っていたつもりが割と見られていたのね…… しかもまた犬呼ばわりか。
「お嬢様、マルグリット様がいらっしゃる前に準備を致しましょう」

 クララお嬢様は一カ月前に突然現れたあのご令嬢に心酔してしまっている。
 
 前回はお嬢様が魔力をしっかり制御する前に早々に対応して失敗しまったせいかお嬢様自ら連れて来たという家庭教師に賛成してしまったが、今回は逆に長期間近くに置き過ぎた事と趣味が合うせいで想定以上に心を許してしまっている。
 
 当初の予定だと魔力の使い方を学んだ辺りで屋敷の使用人たちの露骨な雰囲気に不快感を持って早々に居なくなるものだとばかり思っていた。
 
 それなのに…… 何なのあのご令嬢は全く気にしていないのか動じてすらいない。
 
 お嬢様が孤立するのは予定通りだったけど怒る事もせずにただ塞ぎ込むだけだったのも想定外だった。
 
 お嬢様もお嬢様よ、どうして何も言わないの? 腹が立たないの? 気に入らないんじゃないの?
 
 だって貴族のご令嬢…… いえ、貴族はみんなそういうものでしょう? 自分が気に入らなければ我儘を言う、使用人たちに怒鳴り散らす、領民には暴力を振るってでも搾取する。
 
 少なくとも私は――私達はそうされてきた。貴族はそういうものなの、そうでなければならないの。でなければ何の為に取り返しのつかない事をしてしまったのか分からなくなってしまう。
 
 いえ、余計な事を考えるのは止めましょう。このままではあの御方が立てた計画が台無しになってしまう。
 
「最近はよく風魔法を練習されているせいか髪が乱れる事もありますのでヘアピンをつけておきますね」

「ありがとう、ペトラ」

 そう、あなたの笑顔は私だけに向けておけばいいんです。
 
 さっさとお嬢様を孤立させてもっと私に依存するように仕向けなければ…… というわけでマルグリット嬢にもいい加減にご退場頂きましょう。あの家庭教師と同じ様にね。
 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「お嬢様、間もなくコンテスティ邸に到着します」

 あれ、もうそんなところまで来ちゃったんだ。
 
 うーん、どうやってペトラと話をするか悩んじゃうな。いきなりクララガン無視してペトラに話しかける訳にもいかないしなあ。
 
 とりあえずは普通に訓練を続けて休憩中辺りで違和感が無いように話しかける?
 
 クララにバレない様に直接あの件には触れずにまずは世間話から始めてみる?
 
 結局考えが纏まらない内にコンテスティ邸に着いてしまった。
 
 馬車から降りると相変わらずチワワの様に『待ってました』と言わんばかりに嬉しそうなクララ。
 
「お待ちしておりました。昨日はお休みでお会いできませんでしたので寂しかったんですけど、今お会いできて全部寂しさ吹き飛んじゃいました」
 
 はあ、こんな笑顔見せられたらこれ以上この子に負担をかける訳にはいかないと余計に考えてしまう。
 
 ペトラの事を知ったら立ち直れないかもしれない。私がなんとかしなきゃ……。
 
「クララお嬢様、申し訳ございませんが代官様からの依頼がありまして一旦席を外させて頂きます。この場はマルグリット様にお任せしても宜しいでしょうか」

 えー、よりによって今居なくなっちゃうの? 話が出来ないじゃーん。
 
 けど、無理に引き留めても余計な勘繰りされるかもしれないし、ここは不自然なく対応するしかない。
 
「私は構いません。クララさんも大丈夫ですか?」

「大丈夫です。ペトラ、ここは気にせずに頼まれたお仕事に向かってください」

「はい、それでは失礼いたします」

 まいっか。頼まれ事が終われば戻ってくるでしょ。それまではクララに集中しないとね。
 
「昨日はお休みでしたから感覚が鈍る前に魔力を全身に流して練度の確認をしましょうか」
 
「大丈夫です。お休みの日も無理のない範囲で魔力を全身に流す事は続けてましたから…… あれ?」

 相変わらず真面目だなあ。それにちゃんと教え始めたら飲み込みは早いしセンスもある。
 
 一カ月前とはまるで別人よねと思った矢先、クララの呟きをこの師匠令嬢マルグリットは聞き逃さなかったわ。
 
「どうしたの?」

「いえ…… なんでも…… キャッ!」


 何? 
 
 
 凄い嫌な予感がする。
 
 
 どっと汗が噴き出ている。
 
 
 私の本能が訴えてる。
 
 
 これだけは分かる。
 
 
 このままにしておくと危険だ。
 
 
 まさか…… 暴走?


「魔力循環を止めなさい!」

「止まらないんです! ヤダ、どうして? イヤ…… イヤイヤイヤ! お願い! 止まって! 止まってよおおおおおおおおおおおお」

 何で? 突然何が起きたの? 魔力循環を始めるまでに違和感なんてどこにもなかったはずなのに。