「聞いて頂戴。貴族という生き物は相手に心の内を読まれたりすると一気につけ込んで、食い物にして来る様な連中が多いのよ。あなたはこれからそういった伏魔殿に身を置かなければならなくなるの。特に学園なんて貴族社会の縮図なのよ。社会に出る前から戦いは始まってるの。隠し事が出来ない正直な所はマルグリットちゃんの長所でもあるけど短所でもある。戻り次第教育していくからそのつもりでね」

 明らかにマルグリットちゃんの顔が苦痛な表情に歪んでいくのがわかる。だからその『うぇ~っ』って表情を辞めて欲しいのよね。
 
 たった今、問題点を指摘したばかりなのに直すつもりがないのか本人が気付いていないのか…… かなりの重症だわ…… 
 
「今はこの話はやめておきましょう…… 話を戻すけど、王都にいる友人もママと同じで七歳の娘さんがいらっしゃるそうなの。マルグリットちゃんと同い年ね。その娘さんの事で相談があるらしいのよ」

「私と同じですか…… では、何れ学園で会うかもしれませんね。お名前だけでもお聞きしてよろしいですか?」

「娘さんはクララさんというお名前よ」

 マルグリットちゃんの動きが一瞬止まった。
 
 クララさんの名前に聞き覚えでもあるのかしら?

「あ、あの…… お母様…… 失礼ですが、お会いしに行くご友人のお名前はなんと仰るのでしょうか?」

「マルガレーテよ。今はコンテスティ男爵夫人だったわね」

 マルグリットちゃんがスプーンを口にくわえたまま目をまんまるに見開いて、完全に時が止まってるわ。
 
 と思ったら急に動き出して小声で何か呟いてるわね。
 
「まさか…… 小鹿……?」

「小鹿? クララさんは人間よ」

「い、いえ…… 間違えました。 最近裏の森に住み着いた鹿にクララと名付けてしまったのでそれと間違えまして……」

 我が娘ながら、なんて嘘くさい言い訳してるのかしら。
 
 とは言え、クララさんの事なんて知るわけもないし、無理やり聞き出そうにも答えなさそうだし、一旦は保留にしておきましょう。
 
 王都までは馬車でおよそ一週間。早めに出ないといけないわね。侍女のメリッサに支度をしておいて貰わないと。
 
「メリッサ」

「はい、奥様」

「明日は早朝に出発します。必要な荷物の用意をしておいて頂戴」

「かしこまりました」