私はアニエス・グラヴェロット。グラヴェロット子爵夫人であり、マルグリットちゃんのママです。

 マルグリットちゃんの異変に気付いたのは五歳の頃に数日に渡って高熱を出した時の話。
 
 三日三晩、熱に魘されていた際にメイドのナナが飛び込んできて『お嬢様がー』って言いだした時は心臓が爆発するんじゃないかと思ったけど『目を覚ましました』と聞いて腰を抜かして立てなかった記憶があるわ。
 
 目を覚ました後に夕飯を一緒に食べられるくらい回復したと聞いたから食堂で待っていたの。
 
 食堂に入って来たマルグリットちゃんを見た時には自分が抑えられなくなって、ついつい飛びついてしまったわ。
 
 その拍子に私の腕がマルグリットちゃんの首にガチ決まりしちゃって顔色が青紫色に染まっていたのは内緒。
 
 マルグリットちゃんが私の腕をタップしてくれなかったら最悪の事態を引き起こしていたかもしれない……。反省しなさい、アニエス。
 
 マルグリットちゃんの様子が変わったのは食事の時。
 
 普段なら『あ、あの~』とか『そ、その~』とか家族に対しても申し訳なさそうに話すのに随分とハキハキ喋るようになって驚いたわ。
 
 あの後、ナナに様子をそれとなく聞いてみたんだけど、ナナも高熱から目覚めた以降は今の様にハキハキ喋っている事に驚いていた様子だったわ。
 
 それ以降は、本の虫であることに変わりはないのだけれど、今まで以上に外出する様になったの。
 
 今までだったら考えられないから母親である私もびっくり仰天だったわ。
 
 この子、ウチの子よね……? なんてマルグリットちゃんに聞かれでもしたら即家出されそうな疑問が頭をよぎったりしたのだけれど近くで匂いを嗅ぐとやっぱり娘の匂いなのよねぇ……
 
 いや、だって熱から目を覚ましただけで別人の様になっていたのだから。熱のせいで脳みそパッコーンとやられちゃったかしらなんて聞きたくても聞けないけど、いい方に性格が変わったからヨシとしましょう。
 
 ただ、逆にアグレッシブになり過ぎなんじゃないかと思う時もあるの。
 
 しょっちゅう外に出掛けるし、たまに獣臭かったり泥まみれとか…… 本人は隠してるつもりなんでしょうけど、外に着て行った服がボロボロになってそれを隠している事も実は知ってる。