私は慌てて図書館を出る。学園のルール上走ってはいけないと言われていることは知っているが、フィルミーヌ様を待たせてしまう方が大問題だと思っていたので人目につかないところは体力の続く限り走る。教師を見かけたら早歩きでごまかす。そうして待ち合わせ場所付近に差し掛かったところ男女の声が聞こえてきた。

「そう言わずに、上級貴族同士の交流は必要ではありませんか?」

「学園にいる間は上級も下級も貴族も平民も関係ありません。わたくしは、先約がありますとお伝えしたはずです。」

 この声はフィルミーヌ様? よかった、間に合ったんだ。でも声にちょっと落ち着きがない。どうしたんだろう?

「あなたにいつも付きまとっている伯爵家と子爵家の令嬢ですよね。であれば、侯爵家である私の方を優先するべきかと」

「わたくしの大切な友人に対して、そのような失礼な物言いはやめて頂けませんか? わたくしが彼女らをお誘いしてたのです。わたくしにとっては最優先事項といってもいい大切な時間なのです。ご理解いただけませんか?」

 フィルミーヌ様の後ろに立っていたイザベラさんもすごい形相で男の人を睨んでる。こ、怖いからできればその顔をやめてほしいです。

 正直まだ人と会話も難しいのに、会話の最中に割って入るのが本当に無理なんだけど、フィルミーヌ様がすごい嫌そうというか困っているみたいだからなんとか勇気を出さないと。

「あ、あの…… フィルミーヌ様?」

「あら、マルグリットさん。お待たせしてごめんなさいね。すぐお茶の準備にしますね。ではサイモン様、失礼いたします。」
 
 割り込んできた私の声に不快感を示したサイモン?という人が私を睨みつけてくる。
 
「ん?なんだ、君は?ここは子供の来る場所ではないぞ。」
 
 ひえええええ、すごい睨まれてる。わ、わたしはちょっと発育が遅めかもしれないけど、これでも十六歳なんですって言いたいけど顔が怖くて言葉が出ない。ていうか制服着てるんだからわかってくださーい。
 
「マルグリットさんはれっきとした私たちと同じ十六歳ですよ。見た目だけで女性を判断しようなど失礼ですよ。謝ってください」

 フィルミーヌ様が困ってらっしゃるし、怒ってらっしゃる。わ、わ、わ、わたしのせいだー。どどどどどどうしよう。