かぽ~ん……桶がタイル張りの床に置かれた音が、浴室に響き渡る。
ユウナの予期していなかった提案に、俺は「う、うん」とよく頭で理解していないままに頷き、そのまま頭で状況を理解できないまま浴室に先に入り、頭と身体を洗って湯船の中で待機している。
──えーっと……? どういう事だっけ? 何でこんなに緊張して俺は湯船に入っているんだっけ? ココハ何処ワタシハ誰?
この通り、俺の脳味噌は完全に考える事を拒絶していた。
いや、一瞬考えてからショートしてしまったのだろう。まだキスしかした事がない童貞男子にとって、女の子(しかもカノジョ)と一緒にお風呂に入るなどというのは妄想の範疇を軽く超えている。想像すらした事がない。
いや、きっと、夢だ。俺はさっき幻聴を聞いたに違いない。そう言い聞かせてみたものの──
「……もう入っていい?」
脱衣所から、ユウナの不安げな声が聞こえてきた。
全然夢じゃなかった。
「い、いいぞ」
声がひっくり返りそうになったが、何とか平静を保ったまま返事をする。
内心はバクバクだったが、表に出すわけにはいかない。それはあまりに恥ずかしいというか、俺が動揺してしまったらユウナの立つ瀬がなくなってしまう。
浴室の扉が開いたので、ハッとそちらを見ると……そこには、バスタオル姿の我が恋人があらせられた。長い黒髪は頭の上でまとめられていて、自分の身体を守る様にバスタオルをぎゅっと掴んでいる。その美しい身体のラインはバスタオル越しでもよくわかって、胸元を強く締め付け過ぎているのか、やや苦しそうだ。
「あんまりじろじろ見ないでよ……」
ユウナは顔を赤らめたまま視線を逸らして言った。
消え入りそうな程、小さい声だった。
「ご、ごめん!」
俺は慌てて背を向けて、窓の方へと視線を移す。
何で謝っているのかわからないが、とりあえず反射的に謝ってしまっていた。俺、立場弱すぎない?
ユウナは桶を手に取り、湯船から湯を掬ってかかり湯をしてから、石鹸で肩や胸の上など、タオルの上の部分を洗っていく。
横目でその様子を盗み見ていると、ユウナがこちらをちらっと見て、
「あの……心配しなくても、ちゃんと洗うから」
「え⁉ あ、はい!」
どうやら俺の視線を別の意味で受け取ったらしい。
別に、湯船に入る前にしっかり洗えよゴルァ! という意味合いで見ていたわけではない。ただただ下心で見ていただけである。
それから俺は目を瞑っていると(誘惑に負けて見てしまいそうになるので)、彼女のバスタオルや肌が水や石鹸と触れ合う音や、えっちな水音だけが響いてくる。
「……失礼します」
水の音が途絶えたなと思うと、ユウナがそう言ってから、ゆっくりと湯船に入ってくる。
彼女が肩まで浸かると、ざぶっと湯船からお湯が溢れた。
「もう目ぇ開けていいか?」
「閉じてたの?」
「まあ、一応」
そう答えると、ユウナはくすっと笑ってから「いいよ」と前置いてから、「でも、あんまりじろじろ見られると恥ずかしいから」と付け加えた。
俺は「わかってる」と返してから(わかりたくはなかった)、ゆっくりと目を開けてみる。
すると、肩が触れ合うかどうかといった程の距離に、バスタオル姿のユウナが座っていて、思わずどきんと胸が高鳴る。
一軒家の風呂にしては湯船は大きめだが、さすがに大人二人が完全に距離を開けられる程広いわけではない。一人だと広々使えるが、二人だとちょっと狭い。
いや、身体が触れ合わないように離しているから狭く感じるのだろうか。二人で身体を預け合えば、もう少し距離が離れるかもしれない。
そのまま俺達は、気恥ずかしさから互いに言葉を失っていた。
ゆらゆらと揺れる水面の下で、白いバスタオルに包まれたユウナの身体が映し出されていた。肩から少し上をみると、まとめられた髪の下で、普段は見えないうなじが顕わになっていた。髪は洗っていない様で、首元のうなじ部分だけが水気を持っていて、それが尚更えっちだった。
そして、極め付きは……二つの清らかな果実。角度的に、バスタオルの隙間からとっても柔らかそうな谷間が見えてしまっていた。
──こ、これは色々やばくないか⁉
思わず自らの股間部分を見る。
一応はタオルで隠してあるが、このままではいつ富士山状態になってしまうかわからない。というか、血行が良くなってきてしまって既に色々まずい状況だ。膝を立てて隠しているが、このままでは隠しきれなくなってしまう。
「あ! バスボム、バスボム入れないと!」
「そ、そうだった。どこにあるの?」
肝心な事を漸く思い出した俺達。とりあえず一緒に風呂に入る事のハードルが高過ぎて、目的を忘れてしまっていた。
「上の棚に置いてあるから、取ってくれる?」
「うん」
俺が棚の上にある麻袋を指差して言うと、ユウナが頷いた。
本当は俺が取った方が良いのだけれど、今立つと……その、エイジくんのエイジさんが標高二千メートルくらいに達してしまっていて、引っ叩かれて仕舞いかねない。彼女と風呂に入るなど滅多にないのだから、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
が、この判断にはもう一つ罠が仕掛けられていた事に、俺はそのすぐ後に気付く事になる。
棚の上にあるバスボムを取ろうとユウナが立ち上がったのだが──俺の目の前には、彼女の形の良いお尻が。
──ッ⁉⁉⁉
バスタオルに包まれているとは言え、憧れている女の子のお尻である。しかも、もう少し下から覗き込もうものなら、バスタオルの隙間の神秘的な空間までもが見えてしまいそうである。
──し、しまった~! こんな罠があるなんてッ!
大失敗である。
だが、もし俺が立ち上がっていたら悲鳴を上げられてしまう可能性もあるので、おそらくはこれが最適解だ。いや、そう思っておこう。
俺は念仏を唱えながら、心の平静を何とかして保つのであった。
ユウナの予期していなかった提案に、俺は「う、うん」とよく頭で理解していないままに頷き、そのまま頭で状況を理解できないまま浴室に先に入り、頭と身体を洗って湯船の中で待機している。
──えーっと……? どういう事だっけ? 何でこんなに緊張して俺は湯船に入っているんだっけ? ココハ何処ワタシハ誰?
この通り、俺の脳味噌は完全に考える事を拒絶していた。
いや、一瞬考えてからショートしてしまったのだろう。まだキスしかした事がない童貞男子にとって、女の子(しかもカノジョ)と一緒にお風呂に入るなどというのは妄想の範疇を軽く超えている。想像すらした事がない。
いや、きっと、夢だ。俺はさっき幻聴を聞いたに違いない。そう言い聞かせてみたものの──
「……もう入っていい?」
脱衣所から、ユウナの不安げな声が聞こえてきた。
全然夢じゃなかった。
「い、いいぞ」
声がひっくり返りそうになったが、何とか平静を保ったまま返事をする。
内心はバクバクだったが、表に出すわけにはいかない。それはあまりに恥ずかしいというか、俺が動揺してしまったらユウナの立つ瀬がなくなってしまう。
浴室の扉が開いたので、ハッとそちらを見ると……そこには、バスタオル姿の我が恋人があらせられた。長い黒髪は頭の上でまとめられていて、自分の身体を守る様にバスタオルをぎゅっと掴んでいる。その美しい身体のラインはバスタオル越しでもよくわかって、胸元を強く締め付け過ぎているのか、やや苦しそうだ。
「あんまりじろじろ見ないでよ……」
ユウナは顔を赤らめたまま視線を逸らして言った。
消え入りそうな程、小さい声だった。
「ご、ごめん!」
俺は慌てて背を向けて、窓の方へと視線を移す。
何で謝っているのかわからないが、とりあえず反射的に謝ってしまっていた。俺、立場弱すぎない?
ユウナは桶を手に取り、湯船から湯を掬ってかかり湯をしてから、石鹸で肩や胸の上など、タオルの上の部分を洗っていく。
横目でその様子を盗み見ていると、ユウナがこちらをちらっと見て、
「あの……心配しなくても、ちゃんと洗うから」
「え⁉ あ、はい!」
どうやら俺の視線を別の意味で受け取ったらしい。
別に、湯船に入る前にしっかり洗えよゴルァ! という意味合いで見ていたわけではない。ただただ下心で見ていただけである。
それから俺は目を瞑っていると(誘惑に負けて見てしまいそうになるので)、彼女のバスタオルや肌が水や石鹸と触れ合う音や、えっちな水音だけが響いてくる。
「……失礼します」
水の音が途絶えたなと思うと、ユウナがそう言ってから、ゆっくりと湯船に入ってくる。
彼女が肩まで浸かると、ざぶっと湯船からお湯が溢れた。
「もう目ぇ開けていいか?」
「閉じてたの?」
「まあ、一応」
そう答えると、ユウナはくすっと笑ってから「いいよ」と前置いてから、「でも、あんまりじろじろ見られると恥ずかしいから」と付け加えた。
俺は「わかってる」と返してから(わかりたくはなかった)、ゆっくりと目を開けてみる。
すると、肩が触れ合うかどうかといった程の距離に、バスタオル姿のユウナが座っていて、思わずどきんと胸が高鳴る。
一軒家の風呂にしては湯船は大きめだが、さすがに大人二人が完全に距離を開けられる程広いわけではない。一人だと広々使えるが、二人だとちょっと狭い。
いや、身体が触れ合わないように離しているから狭く感じるのだろうか。二人で身体を預け合えば、もう少し距離が離れるかもしれない。
そのまま俺達は、気恥ずかしさから互いに言葉を失っていた。
ゆらゆらと揺れる水面の下で、白いバスタオルに包まれたユウナの身体が映し出されていた。肩から少し上をみると、まとめられた髪の下で、普段は見えないうなじが顕わになっていた。髪は洗っていない様で、首元のうなじ部分だけが水気を持っていて、それが尚更えっちだった。
そして、極め付きは……二つの清らかな果実。角度的に、バスタオルの隙間からとっても柔らかそうな谷間が見えてしまっていた。
──こ、これは色々やばくないか⁉
思わず自らの股間部分を見る。
一応はタオルで隠してあるが、このままではいつ富士山状態になってしまうかわからない。というか、血行が良くなってきてしまって既に色々まずい状況だ。膝を立てて隠しているが、このままでは隠しきれなくなってしまう。
「あ! バスボム、バスボム入れないと!」
「そ、そうだった。どこにあるの?」
肝心な事を漸く思い出した俺達。とりあえず一緒に風呂に入る事のハードルが高過ぎて、目的を忘れてしまっていた。
「上の棚に置いてあるから、取ってくれる?」
「うん」
俺が棚の上にある麻袋を指差して言うと、ユウナが頷いた。
本当は俺が取った方が良いのだけれど、今立つと……その、エイジくんのエイジさんが標高二千メートルくらいに達してしまっていて、引っ叩かれて仕舞いかねない。彼女と風呂に入るなど滅多にないのだから、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
が、この判断にはもう一つ罠が仕掛けられていた事に、俺はそのすぐ後に気付く事になる。
棚の上にあるバスボムを取ろうとユウナが立ち上がったのだが──俺の目の前には、彼女の形の良いお尻が。
──ッ⁉⁉⁉
バスタオルに包まれているとは言え、憧れている女の子のお尻である。しかも、もう少し下から覗き込もうものなら、バスタオルの隙間の神秘的な空間までもが見えてしまいそうである。
──し、しまった~! こんな罠があるなんてッ!
大失敗である。
だが、もし俺が立ち上がっていたら悲鳴を上げられてしまう可能性もあるので、おそらくはこれが最適解だ。いや、そう思っておこう。
俺は念仏を唱えながら、心の平静を何とかして保つのであった。