俺達はウェンデルの町に入ってから大きめの荷物や金貨等を両替店に預けると、早速町をぶらぶらと歩いた。
以前ウェンデルを歩いたのは一年以上前であるし、どこに何があるかなんてものはさっぱりと覚えていない。
ウェンデルの特徴は、家の壁は白、屋根の色がオレンジと見事に統一されている事だ。だからこそ町全体の色合いが統一感があって、全体的に景観が保たれていて綺麗に見える。日本で言うと、京都に近い感覚だろうか。でも、ここは京都よりももっと統一感がある。
生活感がないかと言われればそんな事はなくて、家のベランダや窓には洗濯物が干されているし、ゴミも落ちている。道端ではおばさん達が井戸端会議をしているし、どこの町でも見られるような光景もあった。
一本道を逸れると、そこには細い道が何本も張り巡らされていて、安易に入ろうものなら迷子になる事間違いなしだ。
「とりあえず町に着く事は着いたし、今日は宿で休もうか。なんだかんだで疲れたしな」
「うん。あ、でも夕飯はどうする?」
「あー、そっか。もう夕飯時だもんな」
海の方に傾きつつある太陽を見て、おおよその時間帯を確認する。肌感では《《あちら》》で言う夕方四時頃だろうか。
この世界には時計がないのだが、一日の長さは俺達の世界とほぼ同じだ。日没と日の出の時間は毎日同じなので、太陽や月の場所で大体の時間を察する事ができる。
「食堂と兼任してる宿を選ぼうか。美味い店探しなんかはこれからやっていこう」
「そうだね。今日は楽しちゃおっか」
そんなやり取りをしながら、宿を品定めしていく。
何軒か見て回ったところで、ちょうど良い感じの宿屋を見つけた。部屋も二部屋空いていて、大浴場と食堂もある。
しかも、俺達が〝勇者〟と〝聖女〟だと判るや否や、宿泊代を返金してくれた。世界を救ってくれた救世主からお金を取るわけにはいかない、との事だった。
それはそれで申し訳ない気がするのだが、店主も引き下がってくれなかったので、そのまま無料で泊めて頂く事にした。
ただ、無料で泊めてもらうのは初日だけだ。おそらく住処が決まるまでは連泊する事になるので、明日以降はちゃんと料金を支払う事で同意を得ている。何で宿泊代を支払う事に同意を得なければならないのだと思うが、仕方ない。さすがに二日目以降も宿泊代を支払わないのでは、むしろ申し訳が立たない。
それはそれとして、どうしてユウナとは恋人同士なのに一緒の部屋に泊まらないのか、だって?
いや、別にこれまで冒険をしている中で一緒の部屋で寝た事ならあるし、何なら昨夜だって馬車の中で一緒に寝た。
でも、野宿と宿屋で一緒に寝るのはほら、色々違うし。俺達もあの時とは関係が変わってしまっているので、例えベッドが別々だったとしてもいきなり一緒の部屋で寝るのは色々緊張するというか、何というか。変に色々しないといけないと思って行動して、それでもしタイミングが今じゃなくて嫌われてしまったら、それこそ一大事だ。
明日は一緒に住む家を見て回らないといけないし、それからは一緒に生活しなくてはならない。今関係が悪くなってしまうかもしれない事にチャレンジするのは、色々良くない気がするのだ。
『自分で責任が取れない挑戦は、挑戦とは言わない』 BY瓜生映司。
あくまでも挑戦は自分で責任を取れる範囲でやるべきで、失敗した時に自分が責任を取れないものは挑戦ではなくただの無謀・自殺行為なのである……とか何とかかっこよく決めてみたが、本当のところはその度胸がないだけだ。
今のところ俺が心を許せるのも頼れるのもユウナしかいないわけで、そのユウナからの信用を失うという事はリスクでしかない。
付き合ってキスをしたからといって、調子に乗ってはいけないのだ。ここから先の進み方がわからないとか、そういう問題もあるけども、とりあえずは様子見である。何か距離を詰めるにしても、ユウナの反応を見てからの方が良いだろう。
いっその事お風呂に自分から凸ってくる様な女の子ならわかりやすくて良いものだが、残念ながら彼女はそんなタイプではない。というか、そんな女の子いるのか? 頭ぶっ飛び過ぎだろうに。
「……どうしたの?」
俺が一人うんうん頭を悩ませていると、ユウナが怪訝そうに顔を覗き込んできた。
「い、いや……何でもない。さっさとご飯食べに行こう」
「……?」
ユウナは相変わらず不思議そうに首を傾げているが、これ以上突っ込んではいけない。俺の為にも。
それから俺達は一旦各々の宿泊部屋でくつろいでから食堂で待ち合わせて、夕食を済ませた。
今日は客足が少ない日らしくて店主はぼやいていたが、俺達にとっては好都合だ。人目を気にせず、ゆっくりと食事を取れた。
途中で「勇者様と聖女様がうちで食事をしてるって他の連中に言ってきていいか」と訊かれたが、それだけは全力でお断りした。なんで俺達が食堂の客寄せパンダをしてやらないといけないんだ。
まあ、無料で泊めて貰ってるのだから、それくらい協力しても良いのかもしれないけれど、今日だけは勘弁して欲しかった。いくら勇者や聖女と言えども、馬車移動は疲れる。今日くらいはゆっくりさせてくれ。
それから俺達は明日の予定を話し合ってからそれぞれ大浴場で風呂に浸かり、部屋に戻ったのだった。
以前ウェンデルを歩いたのは一年以上前であるし、どこに何があるかなんてものはさっぱりと覚えていない。
ウェンデルの特徴は、家の壁は白、屋根の色がオレンジと見事に統一されている事だ。だからこそ町全体の色合いが統一感があって、全体的に景観が保たれていて綺麗に見える。日本で言うと、京都に近い感覚だろうか。でも、ここは京都よりももっと統一感がある。
生活感がないかと言われればそんな事はなくて、家のベランダや窓には洗濯物が干されているし、ゴミも落ちている。道端ではおばさん達が井戸端会議をしているし、どこの町でも見られるような光景もあった。
一本道を逸れると、そこには細い道が何本も張り巡らされていて、安易に入ろうものなら迷子になる事間違いなしだ。
「とりあえず町に着く事は着いたし、今日は宿で休もうか。なんだかんだで疲れたしな」
「うん。あ、でも夕飯はどうする?」
「あー、そっか。もう夕飯時だもんな」
海の方に傾きつつある太陽を見て、おおよその時間帯を確認する。肌感では《《あちら》》で言う夕方四時頃だろうか。
この世界には時計がないのだが、一日の長さは俺達の世界とほぼ同じだ。日没と日の出の時間は毎日同じなので、太陽や月の場所で大体の時間を察する事ができる。
「食堂と兼任してる宿を選ぼうか。美味い店探しなんかはこれからやっていこう」
「そうだね。今日は楽しちゃおっか」
そんなやり取りをしながら、宿を品定めしていく。
何軒か見て回ったところで、ちょうど良い感じの宿屋を見つけた。部屋も二部屋空いていて、大浴場と食堂もある。
しかも、俺達が〝勇者〟と〝聖女〟だと判るや否や、宿泊代を返金してくれた。世界を救ってくれた救世主からお金を取るわけにはいかない、との事だった。
それはそれで申し訳ない気がするのだが、店主も引き下がってくれなかったので、そのまま無料で泊めて頂く事にした。
ただ、無料で泊めてもらうのは初日だけだ。おそらく住処が決まるまでは連泊する事になるので、明日以降はちゃんと料金を支払う事で同意を得ている。何で宿泊代を支払う事に同意を得なければならないのだと思うが、仕方ない。さすがに二日目以降も宿泊代を支払わないのでは、むしろ申し訳が立たない。
それはそれとして、どうしてユウナとは恋人同士なのに一緒の部屋に泊まらないのか、だって?
いや、別にこれまで冒険をしている中で一緒の部屋で寝た事ならあるし、何なら昨夜だって馬車の中で一緒に寝た。
でも、野宿と宿屋で一緒に寝るのはほら、色々違うし。俺達もあの時とは関係が変わってしまっているので、例えベッドが別々だったとしてもいきなり一緒の部屋で寝るのは色々緊張するというか、何というか。変に色々しないといけないと思って行動して、それでもしタイミングが今じゃなくて嫌われてしまったら、それこそ一大事だ。
明日は一緒に住む家を見て回らないといけないし、それからは一緒に生活しなくてはならない。今関係が悪くなってしまうかもしれない事にチャレンジするのは、色々良くない気がするのだ。
『自分で責任が取れない挑戦は、挑戦とは言わない』 BY瓜生映司。
あくまでも挑戦は自分で責任を取れる範囲でやるべきで、失敗した時に自分が責任を取れないものは挑戦ではなくただの無謀・自殺行為なのである……とか何とかかっこよく決めてみたが、本当のところはその度胸がないだけだ。
今のところ俺が心を許せるのも頼れるのもユウナしかいないわけで、そのユウナからの信用を失うという事はリスクでしかない。
付き合ってキスをしたからといって、調子に乗ってはいけないのだ。ここから先の進み方がわからないとか、そういう問題もあるけども、とりあえずは様子見である。何か距離を詰めるにしても、ユウナの反応を見てからの方が良いだろう。
いっその事お風呂に自分から凸ってくる様な女の子ならわかりやすくて良いものだが、残念ながら彼女はそんなタイプではない。というか、そんな女の子いるのか? 頭ぶっ飛び過ぎだろうに。
「……どうしたの?」
俺が一人うんうん頭を悩ませていると、ユウナが怪訝そうに顔を覗き込んできた。
「い、いや……何でもない。さっさとご飯食べに行こう」
「……?」
ユウナは相変わらず不思議そうに首を傾げているが、これ以上突っ込んではいけない。俺の為にも。
それから俺達は一旦各々の宿泊部屋でくつろいでから食堂で待ち合わせて、夕食を済ませた。
今日は客足が少ない日らしくて店主はぼやいていたが、俺達にとっては好都合だ。人目を気にせず、ゆっくりと食事を取れた。
途中で「勇者様と聖女様がうちで食事をしてるって他の連中に言ってきていいか」と訊かれたが、それだけは全力でお断りした。なんで俺達が食堂の客寄せパンダをしてやらないといけないんだ。
まあ、無料で泊めて貰ってるのだから、それくらい協力しても良いのかもしれないけれど、今日だけは勘弁して欲しかった。いくら勇者や聖女と言えども、馬車移動は疲れる。今日くらいはゆっくりさせてくれ。
それから俺達は明日の予定を話し合ってからそれぞれ大浴場で風呂に浸かり、部屋に戻ったのだった。