鬼の長という仕事の手伝いという大それたことなど、もちろん凛にできるはずもない。せめて、この家で伊吹が少しでも安らぎを覚えてくれるよう『私になにかできることはありませんか』と尋ねてもみたのだが、『凛がいてくれるだけで、ここは天国だよ』と伊吹は笑うだけだった。
伊吹が自分を大切にしてくれているのは本当に理解しているし、自分にはあまりある幸福だと凛は思っている。しかしこのままでは息苦しさを覚えるようになってしまいそうだ。せっかく皆によくしてもらっているのに、そんなふうに感じては残念だし失礼な気さえする。
それに、この家に住む皆のことを凛は大好きだ。だからこそ、ぼんやりと日々を過ごしているだけになるのは耐えがたい。
だから凛は決意した。ずっと言い出すのをためらっていた、自分のある希望を伊吹に伝えようと。
*
鬼の若殿(ほぼ長のようなものだが)として本日中にこなすべき職務をなんとか片づけて、伊吹が主寝室に入ったのは日付が変わる直前だった。
襖を開けた瞬間、凛はハッとした様子で伊吹の方を向いた。
人間としては稀有な凛の深紅の瞳は、今日もいたいけな光をたたえている。
出会った当初は傷みが目立った長く伸ばした茶色がかった髪も、雪のように白い肌も、屋敷で過ごすようになったこの二カ月で、随分と艶めくようになった。
少しずつ健康的な美しさを放つようになっていく凛を見るたびに、伊吹はますますこう実感するのだ。
凛は自分だけの大切なもの。この唯一無二の存在には、何人たりとも指一本触れさせまいと。
凛は恭しく三つ指を揃える。
伊吹が自分を大切にしてくれているのは本当に理解しているし、自分にはあまりある幸福だと凛は思っている。しかしこのままでは息苦しさを覚えるようになってしまいそうだ。せっかく皆によくしてもらっているのに、そんなふうに感じては残念だし失礼な気さえする。
それに、この家に住む皆のことを凛は大好きだ。だからこそ、ぼんやりと日々を過ごしているだけになるのは耐えがたい。
だから凛は決意した。ずっと言い出すのをためらっていた、自分のある希望を伊吹に伝えようと。
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鬼の若殿(ほぼ長のようなものだが)として本日中にこなすべき職務をなんとか片づけて、伊吹が主寝室に入ったのは日付が変わる直前だった。
襖を開けた瞬間、凛はハッとした様子で伊吹の方を向いた。
人間としては稀有な凛の深紅の瞳は、今日もいたいけな光をたたえている。
出会った当初は傷みが目立った長く伸ばした茶色がかった髪も、雪のように白い肌も、屋敷で過ごすようになったこの二カ月で、随分と艶めくようになった。
少しずつ健康的な美しさを放つようになっていく凛を見るたびに、伊吹はますますこう実感するのだ。
凛は自分だけの大切なもの。この唯一無二の存在には、何人たりとも指一本触れさせまいと。
凛は恭しく三つ指を揃える。