「ふっ。俺と凛は夫婦なのだから、そりゃいくらでもいちゃつくだろう。うらやましいか? 鞍馬」

 照れてうろたえる凛の肩に伊吹は腕を回し、ふんぞり返るように胸を逸らす。

 一見理知的で落ち着いた大人の男性に見える伊吹だが、実はこんなふうにお茶目な一面もある。

 その姿を目にするたびに、内心『伊吹さん、かわいいところもあるよね』と凜凛は思っていた。

「うっざ! でも伊吹さー、今凛ちゃんにキスするの断られてたっぽいじゃん? あんまりがっつくからそんなふうに言われんだよ。ざまぁ~」

 鞍馬が意地悪く笑ってからかうと、伊吹はぴきりとこめかみに青筋を立てる。

「……なんだと?」

「凛ちゃーん、伊吹だと緊張するの? あ、じゃあ俺で練習するー?」

 なんて言って、凛に近寄ってくる鞍馬。

 どう返答したらいいのかわからず凛が後ずさりをすると、鞍馬の脳天を伊吹がぽかりと殴る。

「いってぇ、なにすんだよ!」

「……今の言動の後でどうしてそんな文句が吐けるんだ、お前は。いい加減、凛にちょっかいを出すのはやめろ!」

 怒髪天の形相で、伊吹は鞍馬に怒りの言葉をぶつけた。

 しかし鞍馬はまったく自分に非があるとは考えていないのか、うらめしそうに伊吹を睨む。

「だって凛ちゃんかわいいんだもんっ」

「それはそうだが、お前はダメだ!」

「伊吹のケチ! 馬鹿っ」

 こんな兄弟のやり取りも日常茶飯事。

 最初はおろおろしていた凛だったが、数分後には何事もなかったかのようにふたりが会話をしているので、最近では『兄弟同士の()れ合いなんだろうな』と理解している。