凛だって、どんな気持ちになるのか想像もつかない。

「……お、お気遣いありがとうございます」

「はは。凛、おやすみ」

「おやすみなさい、伊吹さん」

 その後も、伊吹の手は優しく凛のそれを包む。手だけの触れ合いだというのに、凛の全身は深い幸福感で支配された。

 伊吹と一緒に暮らすようになって数カ月。彼の体温を感じるたびに、凛は幸せな気持ちになる。

 ――人を愛した経験も愛された経験も、私にはない。だから、確かなことはわからないけれど。

 この幸せな充足感が、もしかして愛と呼ぶものなのだろうか。

 そんなふうに考えながら、その日凛は眠りについたのだった。


※こちらは書籍版の試し読みになります。続きは書籍版で。