サカヱは嬉しそうに、もっと小さな茶色の紙表紙のアルバムを引っ張り出した。
「これが、1番古いアルバムさ。大正末期から、昭和一桁の写真だね。見てごらん、アタシは小学校の頃から着物なんて着ちゃいないよ」
そこには、少し拗ねた顔で前髪パッツン、耳がギリギリ見えないくらいのおかっぱ頭。多分後ろ髪は刈り上げてあるであろう祖母が映っていた。
可愛い幾何学模様のセーターに、コーデュロイらしきパンツ姿やら。丸襟のブラウスに、肩紐が付いた膝丈フレアースカートやら、どう見ても現代と大差無い洋装だった。ただ、その横には時々、日本髪の女性が映っていた。いつも、余り変わらない着物をきていて、柄は無地なのか、柄が細かいのかとても地味な印象だ。女性は、子供と目線を合わせる為なのか、座って満面の笑みで映っている。パッと見で、60代とも取れるその女性に珠美佳は首を傾げた。
「この人誰、大人の女の人。お母さんにしては年多いよね」
「アンタは本当に馬鹿だね、これはバアチャンだよ。アタシのバアチャン。アンタのひいひいばあさんだね。綺麗な人だろ」
確かに、年は取っているが非常に綺麗な顔立ちで、背広姿のひいじい様の母親といわれると納得できる。
その写真の前には、もうページは無い筈なのに妙な厚みを感じて、彼女はアルバムをめくった。すると、裏表紙の内側に紙ポケットが設けられており、この時代にしては珍しい2L版くらいの写真が収められていた。
写真には、レースのおくるみに包まれた、まん丸顔の赤ん坊が映っていた。輸入品であろうゆりかごに赤ん坊を寝かせ、その横にはゆったりとした抽象的な大きな花柄のワンピースを着た女性が座り幸せそうな微笑んでいる。女性も丸顔で、少しだけおちょぼ口。ただ、目はぱっちりと大きく二重で、愛嬌のある可愛らしい女性だった。アンティーク調の椅子と、後ろのドレープを大きく取ったカーテンが高級感を醸し出している。
「凄い優しそうな人、この人だれ。何となく、お祖母ちゃんに似てる気がするけど」
そう聞くと、サカヱは急に不機嫌になり無言でアルバムを彼女の手から取りあげた。
「ちょっとお、何よ急に。どうしちゃったわけ、この人お祖母ちゃんの母親でしょ」
写真の隅には、写真館の名前が刻印されていて誕生祝いに特別な場所で撮影したのだと一目で分かる。
「お祖母ちゃん、どうしちゃったの」
乱暴に取りあげたそれを、またタンスの奥にしまい込もうとする祖母に珠美佳は違和感をもっていた。
「こっちでも見てな」先に見ていたアルバムを開いて、見せてくるサカヱ。
「アタシの母親はね、アタシが3歳の時に、妹を産んで死んだんだよ。だから知らない。姉さんと、バアチャンが育ててくれたってさ。その後、後妻さんが来たそうだが、後妻さんだなんて知らなかった。後妻さんをずっと、母親だと思ってたよ。
下の弟達2人を母親は、叱ったけれど・・・アタシは一度たりとも叱られた事も、手を挙げられた事も無い。不思議だと思って居たがね、実の子じゃなかったんだって分かった時に理解できた。差別されたんだよ、可哀想だろ。母親の話はお終い」
呆然としている珠美佳の手から、黒表紙のアルバムも取りあげ。飲み終わった湯呑みを乗せたお盆を手渡すと「テレビを見るから出とってくれ」背中を向けてテレビを付けて無言になってしまったサカヱだ。
「ちょっ、どういうことよ」
文句タラタラで、取りあえず母の居る台所に逆戻りしたのだった。
「これが、1番古いアルバムさ。大正末期から、昭和一桁の写真だね。見てごらん、アタシは小学校の頃から着物なんて着ちゃいないよ」
そこには、少し拗ねた顔で前髪パッツン、耳がギリギリ見えないくらいのおかっぱ頭。多分後ろ髪は刈り上げてあるであろう祖母が映っていた。
可愛い幾何学模様のセーターに、コーデュロイらしきパンツ姿やら。丸襟のブラウスに、肩紐が付いた膝丈フレアースカートやら、どう見ても現代と大差無い洋装だった。ただ、その横には時々、日本髪の女性が映っていた。いつも、余り変わらない着物をきていて、柄は無地なのか、柄が細かいのかとても地味な印象だ。女性は、子供と目線を合わせる為なのか、座って満面の笑みで映っている。パッと見で、60代とも取れるその女性に珠美佳は首を傾げた。
「この人誰、大人の女の人。お母さんにしては年多いよね」
「アンタは本当に馬鹿だね、これはバアチャンだよ。アタシのバアチャン。アンタのひいひいばあさんだね。綺麗な人だろ」
確かに、年は取っているが非常に綺麗な顔立ちで、背広姿のひいじい様の母親といわれると納得できる。
その写真の前には、もうページは無い筈なのに妙な厚みを感じて、彼女はアルバムをめくった。すると、裏表紙の内側に紙ポケットが設けられており、この時代にしては珍しい2L版くらいの写真が収められていた。
写真には、レースのおくるみに包まれた、まん丸顔の赤ん坊が映っていた。輸入品であろうゆりかごに赤ん坊を寝かせ、その横にはゆったりとした抽象的な大きな花柄のワンピースを着た女性が座り幸せそうな微笑んでいる。女性も丸顔で、少しだけおちょぼ口。ただ、目はぱっちりと大きく二重で、愛嬌のある可愛らしい女性だった。アンティーク調の椅子と、後ろのドレープを大きく取ったカーテンが高級感を醸し出している。
「凄い優しそうな人、この人だれ。何となく、お祖母ちゃんに似てる気がするけど」
そう聞くと、サカヱは急に不機嫌になり無言でアルバムを彼女の手から取りあげた。
「ちょっとお、何よ急に。どうしちゃったわけ、この人お祖母ちゃんの母親でしょ」
写真の隅には、写真館の名前が刻印されていて誕生祝いに特別な場所で撮影したのだと一目で分かる。
「お祖母ちゃん、どうしちゃったの」
乱暴に取りあげたそれを、またタンスの奥にしまい込もうとする祖母に珠美佳は違和感をもっていた。
「こっちでも見てな」先に見ていたアルバムを開いて、見せてくるサカヱ。
「アタシの母親はね、アタシが3歳の時に、妹を産んで死んだんだよ。だから知らない。姉さんと、バアチャンが育ててくれたってさ。その後、後妻さんが来たそうだが、後妻さんだなんて知らなかった。後妻さんをずっと、母親だと思ってたよ。
下の弟達2人を母親は、叱ったけれど・・・アタシは一度たりとも叱られた事も、手を挙げられた事も無い。不思議だと思って居たがね、実の子じゃなかったんだって分かった時に理解できた。差別されたんだよ、可哀想だろ。母親の話はお終い」
呆然としている珠美佳の手から、黒表紙のアルバムも取りあげ。飲み終わった湯呑みを乗せたお盆を手渡すと「テレビを見るから出とってくれ」背中を向けてテレビを付けて無言になってしまったサカヱだ。
「ちょっ、どういうことよ」
文句タラタラで、取りあえず母の居る台所に逆戻りしたのだった。