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「…………」

自室で側近が持ってきた書類を見るのは、あやかしの中で最強と言われる龍水家の当主。

──これは酷い……。

その内容は、人間があやかしの一つの集落を襲ったというもの。

「酷い内容ですよね」

側近の碧生(あおい)が、唇をかみ締める。

「ああ。しかも、集落のあやかしはほとんど全滅……。そこまでするのか」
「どうなさいますか? 夜宵(やよい)様」

今までにも何度か、似たようなことがあった。
だがそれらは、誰も死ぬことなどなかった。

しかし今回に至っては違う。

あやかしが、──民が死んでいるのだ。

こればかりは許すことなど絶対に出来ない。

「今まで我慢してきたが。もう終わりにしよう。猫城(ねこしろ)家、鬼宮(おにみや)家と狐燁(こよう)家、それから鳥瓦(とりがわら)家に連絡を頼む」
「かしこまりました」



その後、あやかし達は集まると、すぐに人間側の君主である一条家に奇襲をかけた。

「くそっ……。龍水家は、あやかしは、ここまでするのか!」

一条家の当主が、死にたくないがための時間稼ぎで夜宵の心をつき動かそうとしているようだ。

──床に背をついてなにを言っているんだ。

大した異能も持たない奴が、自分の命のことしか考えていない人間が君主など、虫唾が走る。

このような人間が、あやかしの国を襲うなど、嫌悪と憎悪が芽生えた。

「ああそうだ。お前は俺の民を殺した。それは、なによりも罪深い。地獄に行っても償えるものではない!」

当主はビクッと肩を震わせた。

「安心しろ。今は殺さない。だがまあ……死よりも苦しいだろうがな」

そして当主には、無理やり毒を飲ませてその場を後にした。

──この屋敷の人間は、使用人と当主以外は全員殺したか?

人間と言えど、使用人はなにも知らずに働かされていただけだ。

罪がない、とは言い難いが殺しはせずに捕えるだけにした。