話し合いが行われる部屋まで案内をされながら、文月は後ろから視線を感じていた。
──私、何かしたかしら……。
ちらり、と軽く後ろを振り返る。
夜宵と文月の後ろにいるのは、龍水家に忠誠を誓い、長きにわたり代々家臣として仕えているあやかしの当主達。
そのうちのひとり、扇子を広げて、こちらを眺めている女性。
──確か、弧燁様よね。どうしてこっちを見てくるのかしら。私の思い違い? もしかして、他のところを……。
その時、一瞬だけ弧燁と目が合う。
「……あっ……」
細く、小さな声が喉から漏れる。
「……き。文月」
「あ、はいっ!」
隣で歩調を合わせながら歩いてくれている夜宵が、こちらに顔を向けていた。
「後ろが気になるか?」
「あ、いえ。そういうわけでは……」
「そうか。だが、何かあったらすぐに言ってくれ」
「分かりました」
再度後ろを振り返るも、弧燁はこちらを見てはいなかった。
気のせいだったのかもしれない、と文月は気にしないようにした。