屋敷に入ると、五人の老人とその少し後ろに四人の青年が並んでいた。
「ようこそ。お越しくださいました。龍水様!」
口を開いたのは、杖をついているひとりの初老の男性。
その男性の言葉を合図にしたように、周りの者たちが同時に深く頭を下げる。
「…………」
こちらも、それに応えるように一礼をする。
よく見ると、年配の男女はかつて文月の父である一条家当主に仕えていた家臣たちだった。
義母や義姉に虐められている時に、何度かその姿を見たことがあった。
その際に、「妾の子なのだから、当然の扱いですよ」と一緒になって暴言を吐いてきた者もいた。
それが今、目の前にいる。
しかし驚いたのは、彼らの態度だった。
「ああ、文月様! ご無事で何よりでございます!」
猫撫で声で心配していたように語り、媚びを売るような目でこちらを見てくる。
夜宵もそれに気づき、冷たく鋭い視線で彼らを睨みつける。
文月は思わず、夜宵の後ろに少しだけ身を隠してしまった。
──怖い。
今まで見たことのない彼らの態度に、恐怖を感じずにはいられなかった。
恐らく、もし文月が人間の国へと帰ってきた時一条家の次の当主となった際、少しでもいい位置いようという思惑なのだろう。
帰る気はないがもし仮に当主となっても、あのような自分のことしか考えていない者たちを、特別扱いなど絶対にしたくない。
ふと、視線を感じてその方向に顔を向ける。
老人男性が立っている中心よりも、右斜め後ろに、こちらを強く鋭い眼光で睨んでいる若い青年がいた。
しかし、目線の方向が文月ではなく夜宵に向けられていた。
茶色の髪、茶色の瞳。それは夢に出てきた少年と同じ。
顔立ちも、あの少年から成長したと言われれば分かるほど、面影がある。
文月は思わず目を瞠り、夜宵の着物の羽織の裾を軽く握った。
「どうした?」
「……あの方。似ています」
夜宵は気づいたように、文月の目線の先を見る。
「あの男か? 夢に出てきた少年というのは」
「おそらく……」
「ならば、注意しておかなくてはな。文月、なるべく俺の傍か優依と華の近くにいてくれ」
「はい」