「人間の国へは、優依さんと華さんも一緒に来るのですね」
馬で移動をしながら、夜宵に語りかける。
文月ひとりでは乗れないので、夜宵と共に乗る形だ。
後ろから着いてきているのは、夜宵の側近である碧生と文月の侍女ふたり。
そして夜宵に仕えているあやかしも、もちろん来ている。
「ああ。もし、万が一俺に何かあった場合、君を守る者がいないとだからな」
夜宵に万が一などあるのだろうか、と思う。
しかし、世の中何があるのか分からないため、用心しておくに越したことはない。
──あの夢の、少年も気になるわ……。
夢の中では、お互いに幼少の姿だったため、現実では恐らく、文月と変わらない歳だろう。
『大丈夫。時期にわかるよ』
あの言葉は、一体どういう意味なのか。
もしかしたら、近々会うということだろうか。
──だけど、どうして私の夢に……? 人の夢に入ることが出来る異能なのかしら。
異能を持つ人間は、年々減ってきている。
だとすれば、その人が持っている異能は相当なものだろう。
「何事もなく終わればいいのだけど……」
「何がだ?」
小さく呟いたつもりが、夜宵は聞こえたらしい。
──夜宵さまには、お話しといた方がいいかしら。
信じてもらえるかは分からないが、もし仮に何かあって、夜宵に迷惑をかけたくはない。
「実は……」
文月は夢に出てきた少年のことを話した。
その少年が、もしかすると今日現れるかもしれない、ということも。
「なるほどな」
「すみません。こんな話……。信じてくださらなくて、大丈夫です。所詮は夢の中でのことなので」
「いや。俺は信じる」
夜宵の言葉に、文月は思わず目を瞠る。
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
夜宵は、肯定の意を示し、頷いた。
「でも、確証もありません。もし、違ったら……」
「それなら、単なる夢で終わる。それはそれで何事も無かったのだから、いいだろう」
「……そうですね。何事も無いのが、一番です」
──そうよ。何事も無いのが一番。だけど、この拭いきれない不安は何かしら……。