十数年後──。
「…………」
ひとり、狭い部屋で唯一ある少し広めの窓の枠に腰掛け、外を眺める。
窓や壁の隙間から、冷たい風が吹き抜け、彼女の長い黒髪を揺らす。
明るい太陽は地面を照らし、人々に光をもたらしていた。
──この光が見られるだけでも、ありがたいのかしらね。
ふっ、と自嘲気味に笑う。
コンコン、と古い扉を叩く音が部屋に響く。
窓枠から降りて、その場に立つ。
「どうぞ」
ギィ、と重たく開く扉の音。
中に入ってきたのは、茶色の髪を結い上げ、黒の瞳をしている女性。
「文月お嬢様。お食事をお持ち致しました」
「ありがとう。輪も一緒に食べましょう」
輪はこの広い屋敷でたったひとり、文月についてくれる人間だ。
文月のために、毎日毎日身を粉にして動いてくれている。
だからせめて、食事くらいはゆっくりして欲しいのだ。
「いつもごめんね、輪」
「お嬢様が謝る必要ございません。これは私の意思でやっていることです」
「……ありがとう」