夕食時、夜宵は何故かずっとこちらを見てくる。

「…………」

見られていると、気恥しくて食事が中々進まない。

「あ、あの……。私の顔に、何かついていますか?」
「ああ、いや。そういう訳じゃないんだ。すまない。邪魔をしたな」

そう言うと、夜宵はまた食事を始めた。

──どうしたのかしら。

それからは、特に会話をすることも無く、食事を終えた。

「……やはり、言ったほうがいいか」

夜宵が、ぽつりと何かを呟く。

「どうかなさいましたか?」
「……文月。──人間の国に行く気はあるか?」
「え……?」

突然の問いかけに、文月は言葉を失う。

「人間の国……」

もう、この世にはいないはずの異母姉や義母、異母兄が脳裏に浮かび上がる。

「わ、私は、帰らないといけないのですか……?」
「いや。君を帰すつもりはない。ただ、少し面倒なことが起きたんだ」
「?」

夜宵の話によると、人間の国が話し合いを要求し、一条家唯一の生き残りである文月を、話し合いに参加させるか、というもの。

「それは、私が了承しなければ出なくていいのですか?」
「ああ。まあ、人間側はうるさいだろうがな。君が決めることだ。俺は君の言葉を尊重する」

文月にとって、人間の国は心の安らぎなどないところ。
そのような所に戻るなど、考えたくもない。

──だけど、私のせいで夜宵さまや他のあやかしの方たちが責められるのは、嫌……。

「行きます。人間の国に。夜宵さまと」
「……分かった。詳しいことは、また後日伝える」
「はい」



◆◆◆



──風の音と、鳥の鳴き声がする。

目の前には、ひとりの少年が一輪の花を手に持っていた。

「これは、文月ちゃんにあげるね」
「…………」

以前、夢に出てきた少年だった。

「大丈夫だよ。今の僕には何も出来ないけど。いつかここから出たら、服も食事も、部屋も……。全部、君の望む物をあげるから」
「……あなたは、誰?」

少年は目を見開くと、ふっ、と笑みを浮かべた。

「大丈夫。時期に分かるよ」
「え?」

また、強い風が吹く。
突然のことに、驚き思わず目を瞑る。

風が止み、目を開けると少年はいなくなっていた。



◆◆◆