夕方になり、咲夜子もそろそろ帰ろうとしていた時、またも客人が来た。
「……もしかして」
咲夜子は何となく察したような表情をしていた。
部屋の襖が、また勢いよく開かれた。
「咲夜子ちゃん!」
「宵巳くん〜」
咲夜子はひらひら、と手を振る。
宵巳、と呼ばれた男性は咲夜子の姿を確認すると、ぱあっ、と顔を輝かせて、走って咲夜子に抱きついた。
「酷いよ。書き置きだけ残して、行っちゃうなんて〜」
「ごめんね。どうしても、行きたくて」
まるで、子供をあやすように宵巳の頭を撫でる。
──あの方は夜宵さまのお父様、よね? 性格がまったく似ていない気が……。
咲夜子の性格とも似ていないように感じたので、もしかして父方の方ではと思ったものの、性格の方はどちらにも似ていないようだった。
宵巳の髪色は黒く、瞳は夜宵と同じ輝かしい白金の瞳。
夜宵と顔立ちは似ているが、夜宵の方は母から受け継いだ所もあるように見える。
「あっ、夜宵君、久しぶり〜」
満面の笑みを浮かべて、夜宵に手を振る。
夜宵はただ軽く会釈をするのみ。
夜宵の横に立っていた文月は、宵巳と目が合う。
「ねぇ、咲夜子ちゃん」
「なに?」
「もしかして、あの子が……?」
「そうよ」
咲夜子とこちらを見ながら、何かを話していた宵巳は瞳を輝かせて、こちらに歩いてくる。
「君が、文月ちゃんか!」
「は、はい」
「わぁー! あの、堅物の夜宵君がとうとう女の子を! 文月ちゃん。夜宵君をよろしくね!」
「え? あ、はぃ……?」
言葉の意味が分からず、どことなく疑念を抱きながら返事をする。
「『はい』だって! 咲夜子ちゃん!」
「宵巳くん、文月ちゃんあなたの言ってること、多分半分も理解していないわ。それに文月ちゃんにそういう話はまだ少し早いのよ」
隣に立っている夜宵は、何故かこちらを見ようとせず、顔を逸らしていた。
「夜宵さま? 何かございましたか?」
「いや。何も」
心做しか、少し嬉しそうに見える。
文月は何かあったのだろうか、と首を傾げる。
「ほら、見て。ああいう感じが、微笑ましいのよ」
「そっか。なるほどね〜」
二人がにこにこ、と微笑ましそうにこちらを見る。
夜宵はそれに、半ば呆れたようにため息をついた。
咲夜子と宵巳を玄関まで見送る。
「文月ちゃん。また、お話しましょうね」
「わ、私なんかでよろしければ……」
「私は文月ちゃんだから、したいの。──いいかしら?」
咲夜子の心からの言葉に、文月は嬉しくなった。
「はい!」



