食事を終えて、部屋に戻る。

「文月様。お風呂の準備が整いました」
「ありがとう。華さん」

入浴のための準備をして、浴室へ向かう。

──いつ見ても、ここの浴室は広いわ……。

数ヶ月間、毎夜入っていても、この広さには中々慣れない。
部屋も広いうえに浴室まで広いとなると、少し目が回る。

「でも、そろそろ慣れないと。お屋敷なんて、ここの倍以上あるもの……」

湯船に浸かりながら、小さくため息をこぼす。

「明日の朝は、朝食を一緒に出来るかしら?」

ふと、思い浮かんだのは夜宵の事だった。

毎日忙しいのにも関わらず、朝と夜は必ず食事を一緒にとってくれる。

なぜ、あそこまで自分に良くしてくれるのか。

自分は何も返すことが出来ないのに、と文月は必然的に思う。

──夜宵さまはどうして……私との婚約を望むのかしら。

自分には、夜宵のようになにかを与えることは出来ない。

いったい、自分は何を持って生まれたのだろう。
母はなぜ自分を産んでくれたのか、愛してくれたのか。

何も無い人間が、ここまで良くしてもらっていいのか。

文月は眠りにつくまで、そう思い続けた。