日が沈み、月と星が顔を出しはじめる。

夕食の時間になり、いつもの部屋へ侍女ふたりと共に向かう。

部屋に向かうも、そこに夜宵の姿はなかった。

──いつもなら、私よりも先に来られているのに……。

珍しい、と思いながらも席に座り、夜宵が来るのを待つ。



しかし、いつまで経っても夜宵が部屋に来る気配はない。

「お忙しいのかしら。だけど、先に食べてしまうのも……」

襖の向こう側から、侍女長である千依の声がした。

「文月様。入ってもよろしいでしょうか?」

もしかすると、なにかを伝えに来たのかもしれないと思い、文月は千依を部屋に入れる。

「あの、千依さん。夜宵さまは?」
「旦那様は、会議が少し長引いていらっしゃるようです。文月様に、先にお食事を取っておいて欲しい、と言伝を頼まれました」
「そう、なの……」

返事をした声が、沈んでいくのを感じる。
理由は分からないが、夜宵と食事ができないというだけで、気持ちが沈んでしまう。

しかし、我儘は言えない。

夜宵から結婚を言われているとはいえ、文月はそれに頷いていない。
婚約者どころか、婚約すらしていないのだから。

「お仕事が忙しいのならしょうがないわ。夜宵さまには、あまり根を詰めないでください、と伝えてくれる?」
「かしこまりました」

千依を見届けて、ひとりで食事をすることになった文月は、静かに食を進める。

ひと口、またひと口と食べ進めても、いつも美味しいはずのご飯からは、味がしなかった。

──どうしてかしら。一条家では、ひとりで食べることが多かったのに。

一条家にいた頃は、輪が持ってきてくれた食事を生きるためだけに食べてきたので、味など気にしたこともなかった。

しかし、今日は何故かなにを食べても味がしない。

それでも、食べなければせっかく食事を作ってくれた使用人に、申し訳ない。

それに、夜宵や優依、華、千依にまで迷惑をかけたくはない。

「夜宵さまと食べているときは、とても美味しく感じるのに……」

ぽつり、とこぼした言葉に、文月はハッとして我に返る。

──わ、私ったらなにを……!

それだとまるで、夜宵と食べたいと言っているようなものではないか。

誰もいないのが救いと言うべきか、恐らく真っ赤であろう顔を見られなくてすむ。

熱を冷まそうと、深呼吸をして心を落ち着かせる。