「──まずは、私たちの歴史ですが……。古の時代よりもはるか昔。その頃からもう既に、人間とあやかしはいたそうです」

優衣が丁寧に優しく教えてくれるので、とても分かりやすい。

「それは、本で少しだけ読んだわ。もしかして、その頃から争い合っていたの?」
「いえ。その頃は、お互い共生し合って生きていたと言われています」

その言葉を聞いた時、目を瞠った。

「人とあやかしが、共生……」

有り得ない、と文月は思った。

古の時代から、双方は争い合っていた。そう記述があった。
だから、その前があるなんて思いもしなかった。

──じゃあ、一体いつから……。

「私共も、それ以上詳しいことは分からないのですが。共生していたという記述は少なからずございます」
「そうなの」

ふと、文月は人間の国にはそういう記述は無いかもしれない、と思い至った。
人間の国で、部屋に置いてある数少ない本を読んでいた時、あやかしのことを悪く書いてあるものばかりだった。
“全ての元凶はあやかし”“あやかしがこの争いを始めた”“あやかしさえいなければ……”など、今思えば酷いものばかりだった。

──あやかしは、とても優しいのに。だけど私もそれを知らなかったら……。あの本と同じ考えを持ってしまっていたかもしれない。

「本日、文月様に一番知っておいてほしいのは、私たちあやかしの階級についてです」
「あやかしにも階級があるの?」
「はい。私たちあやかし共は強さによって、階級が異なるのです」

人間にも階級はあるが、あやかしとは違い強さでは決められていない。人間は基本的に血筋を重んじる。

「例え同じ種族でも、上や下の階級にいるものがおります」
「今では、旦那様があやかし界の頂点に君臨しております。その次に来るのが、鬼や妖狐、猫又と天狗がおります」
「それ以外にも、中級には蛇や兎などがおります。下級は雪女や女郎蜘蛛などです。あれらは数少ない人間との間に生まれたものが多いです」

文月は目を瞠る。
今まで、そのような話は聞いたことがなかった。

──いいえ。知らなくて当然だわ。外との情報は殆ど全て遮断されていたから。それに、あやかしの情報も人間の国にはほとんどないだろうから……。



ふと、幼い頃の記憶を思い出した。

脳裏に映るのは、ひとりの少年とその後ろには、沈みかけている太陽。

その光景には、もやがかかっていて分かるのは少しだけだった。

──今のはなに……? 私、過去に外に出たことがあったの……?

「…………」
「文月様?」

優依の声に、ハッとして我に返る。

「大丈夫ですか?」
「ええ。少し考え事をしていたの。気にしないで」

勉強会はまた明日ということで、幕を閉じた。

「明日は、私たちのことについてもっと詳しくお話致します!」

華のやる気満々の表情に、文月は微笑んだ。

「ありがとう。楽しみにしてるわ」