龍水家で過ごして二週間ほど経った。
ここでの生活も、大分慣れ始めてきた。

──だけど、誰も私が人間だと気づいていると思うのになにも言わないわ。どうして?


「ああ、それは……。君には、龍の匂いがついているからな」
「龍の匂い、ですか……?」

夜宵に詳しい話を聞こうと、問いかけたら首を傾げるような言葉を言われた。

「この屋敷に、結界を張っていることは知っているか?」
「はい」
「結界に、俺が少し細工をしたんだ。君をここに連れてきた日にな」

──だめだわ。よく分からない……。

あやかしや妖力、結界などの事にはなにも詳しくないので、しっかりと話を聞かないと理解が追いつかなかった。

「特定のあやかし以外には、君が人間だと分からないように、君のその瞳や匂いを分からないようにしたんだ。だから、君がこの結界を出ない限りは、君が人間だとは誰も分からない」
「では、私の瞳は他の人にはどう見えているのですか?」
「金色ではない別の色だ。分かりやすく、水色で統一している」

ほっ、と少し安堵する。

瞳が金色でない別の色なら、それ以外がどう見えてもいい。
とても良くしてくれているあやかしに、人間だと気づかれて、孤独にされるのはどうしようもなく怖い。

「……ありがとうございます」
「礼はいい。むしろ、勝手なことをしたのではと不安になった」

文月は首を横に振る。

──むしろ、私の方がお手を煩わせてしまった……。

感謝の気持ちと申し訳なさが、一気に押し寄せてきて、気持ちが落ちる。

「あやかしの事について、もっと知らないと……」

ぽつり、と夜宵にも聞こえないように小さな声で呟いた。