庭に出ると、桜、薔薇、紫陽花(あじさい)、萩、百合、椿など──数え切れないほどの花々が咲き乱れていた。

「きれい……」
「お気に召されましたか?」
「ええ。とっても」

しかし、そこでとある疑問が思い浮かんだ。

──変だわ。桜や梅の花は、まだ先のはず。いいえ。それ以外にも、この時期には咲かないはずの花がたくさん……。

季節は晩秋。現に、椿の見頃は冬の終わり頃だと本で読んだことがある。

何故、この時期には絶対に咲かない花がこんなにもあるのか。

「優依さん、華さん。あの、どうしてお花が……」
「お気づきになられましたか?」
「え」

にこにこと、笑みを浮かべる侍女のふたり。
文月はわけが分からず、首を傾げる。

「屋敷に戻りながら、詳しく説明させていただきますね」

優依と華は、文月の歩調に合わせながらゆっくりと歩いてくれる。

「龍水家の屋敷には、代々当主が張る結界があるんです。その結界は屋敷全体を守ってくれて、ちょっとやそっとの攻撃では壊れないように出来ているんです」
「そして結界の中でも特別な作りの結界のひとつが、あの庭になります」

ひとつ、というと他にもまだあるらしい。

龍水家の敷地は広いため、全てを見つけるは難しそうだ。

「詳しいことは、存じ上げないのですが。散りゆく花々を見たくない、という初代当主夫人のために、この結界を張ったというお話がございます」
「まあ。じゃあ、その方はお花がとてもお好きだったのね。素敵だわ」

ふふ、と微笑むと優依と華はいきなり、鼻血と吐血をした。

「だ、大丈夫?」
「ご安心を……ただの発作です」
「う、美しいものを見ると、発作が……うぐっ」
「ほ、発作……?」

文月は大丈夫かと心配したが、本人達が問題ないと元気に言ったので、少し疑いが残りながらも、屋敷内の散歩は終わりを迎えた。