朝食を終えた文月の元に、三人の侍女が部屋へ訪れた。

──朝食のときに、夜宵さまとお話した時に言われたけれど……。

三人のうちふたりの使用人が、こちらを凝視しているように見えるのは、気のせいだろうか。

「改めて、ご挨拶をさせてください。私は侍女長の綾龍千依(あやたつちよ)と申します。どうか、千依とお呼びください」
「私は侍女の龍凛優依(りゅうりんゆい)と申します」
「同じく侍女の憐龍華(あわりゅうはな)と申します!」

ふたりは同時に、深く頭を下げながら「よろしくお願い致します」と言った。

──お部屋に案内をしてくれたのは、優依さんだったのね。

長い青色の髪を高い位置に結び、水色の瞳を持っていて、女性にしては背が少し高めの優依。

毛先がふわっとしている金色の短い髪と、朱色の瞳で、背は文月と同じくらいの華。

「文月です。よろしくお願いします」

にこっと、笑みを浮かべると、突然優依と華のふたりが倒れてしまった。

「えっ!」
「お気になさらず。気絶しただけなので、すぐに起きます。本日から、文月様にはこの優依と華が仕えますので。なんでも、このもの達にお申し付けください。敬語も必要ございませんので」
「は、はい……」

気絶しただけ、という言葉が気になったが千依は答えてくれなさそうだった。

──だ、大丈夫かしら……。



「あの、華さん。少しいいかしら?」
「はい! なんなりと!」

瞳を輝かせて、笑顔を浮かべる華とは反対に、少し離れた所で掃除をしている優依が、こちらを憎々しそうに睨んでいる。

文月はそれに気づかず、華に問いかける。

「華さんと優依さんは、私が人間だと知っていると聞いたけど。どうして、ここまで良くしてくれるの?」
「それはですね──」
「文月様が、良い方だと分かっているからです」

華が答えようとした時、優依が突然横から入ってきた。

「え……?」
「私達、あやかしは人間よりも五感が優れているのはご存知ですか?」
「ええ。本でしか読んだことないけれど。龍はその中でも特に、五感が鋭いのよね?」

頷いた優依が、再び口を開きかけた時、今度は華が横から入ってきた。

「そうなんです! なので、そのあやかしや人間の事が、匂いで感じ取れるんです」
「匂い?」
「単純に優しいか悪い奴かってだけじゃなくて、そのひとが今なにを考えてるのか、とかもなんとなく分かるんです。ですが日常的にはそういうのは抑えてます」
「そう。教えてくれてありがとう」

文月がそう言って微笑むと、何故か二人は吐血しながら大声で「「お役に立てて光栄です!」」と言った。

──私が良い人なわけがないわ。だって……。

文月は小さく、唇を噛み締めた。