日が昇り一時間ほど経ったころ、襖の向こう側から、先程部屋を案内してくれた侍女の声がした。
「お休み中のところ失礼致します。襖を開けてもよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「失礼致します。お食事の用意が出来ましたので、お部屋までご案内したいのですが……」
「分かりました。すぐに行きます」
侍女について行った部屋には、この屋敷の主が待っていたかのように座っていた。
彼の目の前には、大きな机が置かれてあり、そこには沢山の料理が並べられていた。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「こちらへ来い。一緒に食べよう」
文月は言われた通りに、彼の前に座る。
彼の顔をよく見ると、目の前にいる彼はとてもよく整った顔立ちをしている。
あの時は暗さもあったのと、あやかしの国に来たというのに、色々と追いついていなくて、誰かの顔を見る余裕がなかった。
藍色の髪、白金の美しい瞳。
それは、思わず誰もが見惚れてしまうほど。
「部屋は気に入ったか?」
「えっ、あ、はいっ! 広くて、綺麗で……。とても、過ごしやすいです」
「そうか」
そういえば、彼の名前を知らなかったことを今さら思い出す。
「あ、あの。私、貴方様のお名前をまだ知らないのですが……」
「名乗っていなかったか?」
「はい」
二人の間に、少しの間沈黙が生まれた。
その沈黙を解いたのは、彼だった。
「俺の名前は、龍水夜宵だ。夜宵、と呼んでくれて構わない」
「や、夜宵さま……」
名を呼ぶだけなのに、何故こうも恥ずかしくなるのか、分からなかった。
ふっ、と夜宵は嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みを見た瞬間。何故か、胸が高鳴るのを感じた。