(あいり、って名前なんだ)

 マオはなおも余裕に笑って、

「なぜ嘘だと断言できるんだ? 現に俺達は今も里香の家に遊びにいってたのに。な?」

「そ、そうです! すっごく楽しかったです!」

 私が同調するようにして大きく頷くと、マオは「ほらな」とあいりさんを見遣って、

「そっちこそ、里香とはどんな関係なんだよ」

「あいり? あいりは里香の、一番大好きな人だよ」

「里香は男と住んでるんだぞ? 冗談じゃないのなら、ひどい妄想だな」

「妄想じゃないし!」

「ならなんで里香は男と住んでるってんだ。二人で一つの部屋で、ベッドだって一つしかないんだぞ」

「それは……!」

 声を荒げたあいりさんが、ぐっと下唇を噛む。
 かと思うと、今度は打って変わって可愛らしい笑みを浮かべ、

「それはねえ、あいりに嫉妬してほしいからだよお。あいり、里香の考えていることなんて、ぜーんぶお見通しなんだから。だってあいりも、里香が一番に大好きなんだもん」

(こ、これは思っていた以上に、まずそうな"ストーカー"さんなのでは……!)

 口元に手を寄せ、クスクス笑うあいりさん。
 その指先は、桜色と赤いネイル。

(ん? あの色って……)

 それと、あの指は。

「残念だが、お前の嫌がらせは効いてないぞ」

 嘲笑交じりに告げるマオに、あいりさんがぴくりと肩を揺らした。

「あの程度で怯えるような男なら、とっくに出ていっているはずだろ。だがいまだに一緒にいるってことは、とっくに二人にとって、あの花は脅威でもなんでもないってことだ。下手な悪あがきはやめるんだな」

「……うるさい」

「いくら過去に縋ろうと、時間は進んで行くんだ。いい加減、現実を直視したらどうだ?」

「うるさい、うるさいっ!」

 耳を塞いだあいりさんは勢いよく首を振って、

「あの男が悪いんだ! あの男が里香を騙して! 汚い! きたないっ!! アンタ達だって、里香の気持ちなんてちっとも理解してあげらないくせに! 親友? そんなの里香に必要ない! 里香に必要なのはあいり、あいりしかいないの!」

「あ、あいりさん」

 落ち着いてください、と続けようとした私の口を、マオが無言のまま片手でそっと制す。
 その視線を冷たく細めて、