玄影さんでは得られる情報に制限がある。
 里香さんは放っておいていいと言ったけれど、溜まっていた花の量を見るにすでに長期戦になっている様子。

 いくら相手を知っているといっても、里香さんが絶対に安全だという保障はないわけだし。

「穏便に解決したい……ってことなんですよね。相手が飽きるのを待つと言っても、必ず飽きてくれるともいいきれませんし……」

 だからこそ、私もマオという"護衛"付きの場合のみ、こうして外出させてもらえているワケで。
 路地をマオと並んで歩きながら、私は思考を巡らせる。

 と、マオは「本当になあ」と呟いて、おもむろに私の手を掬い上げた。思わず息を呑む。
 立ち止まってしまった私を愉し気な瞳で見下ろして、マオは私の指先を自身の顔前まで持ちあげた。

「ここに百年以上経っても飽きないどころ必死なヤツがいるってのに、楽観的だよな」

「そ、れは……っ」

 刹那、マオが鋭い眼光で右方を見た。

「マオさん?」

 どうしたのだろうかと視線の先を追う前に、マオが私の肩を抱き寄せて、

「俺達になんの用だ? 悪いが道には詳しくないぞ」

 え、と今度こそその視線の向いた先を見遣ると、路地に佇む一人の女の子。
 小柄な子だ。面持ちはおそらく二十歳を超えたか超えいないかだと思うけれど、パッチリうる目な小動物を彷彿させるメイクもあって、年齢がよくわからない。

 緩く波を描き、小さな角のように両サイドでくくられたピンクアッシュの髪。
 手首の広がる襟付きの白いブラウスの首元には、黒いリボンが。
 太もも丈の淡いピンクベージュのワンピースが、彼女のふわりとした雰囲気によく似合う。

 かわいい子。それが私の第一印象だったけれど、マオからは警戒の気配が強く伝わってくる。
 彼女はにこりと愛らしい笑みを浮かべると、「ちょっとお尋ねしたいんですけれどお」と鈴のような声で、

「お二人はあ、里香とどんな関係なんですかあ?」

「!?」

 脳裏に、里香さんの言葉が思い起こされる。

『もし、誰かにアタシのことを聞かれたら――』

(まさか、この子が……!?)

 マオは私の肩を抱いたまま、口角を吊り上げ、

「俺達か? 俺達は里香の親友だよ」

「親友? そーんなバレバレな嘘じゃ、騙されませんよお。あいり、こう見えて馬鹿ではないんでえ」